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走る彼らを遮る樹々の隙間から、突如紅い光が走った。
「ゆきちゃんだ!」
景時が自信を持って叫ぶ。
だが、白龍は眼を見開いた。
「違うよ。ゆきじゃない」
「‥‥‥でも、確かにゆきちゃんなんだ。さっきと同じ‥‥‥」
「景時さん、さっきって‥‥‥」
息を切らしながら、譲が口を開く。
景時は「後でね!」と答えて、足を速めた。
既に尋常でなく足の速い九郎とヒノエ、望美、敦盛、そして弁慶の姿は見えなかった。
「夫神万物妙 変化也通者 立天道 曰是陰陽 ‥‥‥」
「‥‥‥面白い‥‥」
「天地、吉凶」
ゆきは尊勝陀羅尼を唱え始めた。
「ノマクサマンダ・ボダナン・カロン・ビギラナハン・ソ・ウシュニシャ・ソワカ」
爆発的な、紅い炎。
生まれて初めて、害意を持って唱えてしまった呪は、それ故に今までにない程の強い力を持って知盛に襲いかかる。
「‥‥‥ッ!!‥‥‥」
けれど、瞬時に束縛が解けた知盛は、二刀で結界を作る。
‥‥‥が、防ぎ切れる筈もなく、後方へ大きく吹き飛ばされた。
ゆきはホッとしたのか、急激に意識が霞みそうになる。
(もう‥‥‥ダメだ)
それでも頑張ろうと、ふらつく右手で眼を擦った。
「‥‥‥ゆき!!」
(ああ、きっとこれは幻なんだね)
頭ではそう思うのに、声を聞いた瞬間に分かってしまった。
来てくれた。
「‥‥‥弁慶さん」
途端に溢れる涙。
こんなにすぐに泣いたら、呆れられるかもしれない。
なんて思うのに、心は安堵して‥‥‥安心しきってしまった。
既に意識のない兵士の頭を膝に乗せたまま。
背後に倒れそうになるゆきを、弁慶が寸での所で抱き留めて二人共に座る。
「止血をします。少し痛いけど我慢して下さい」
ゆきの左腕を見て、眉を潜める。
(夢でなければいいのに)
一瞬、泣きそうに見えた弁慶の眼が、真実ならばどれほど幸せだろう。
疲労と高熱と、傷の痛みと出血‥‥‥。
極限まで張り詰めた意識は、その腕の中で急激に溶けていった。
「‥‥‥ゆき?」
どんなに辛くても、想いを捨てるなんて出来ない。
愛しくて、仕方ないから。
ACT29.対峙する銀と朱
20071206
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