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嫌と言う程思い知らされる

自分にとって、どれほど

重く締める存在かを。





どれほどその存在に




‥‥‥救われて、いるのかを。






ACT29.対峙する銀と朱







「‥‥‥‥‥‥ゆき殿、どうか‥‥‥お逃げくだ‥‥‥」

「あ‥‥‥大丈夫っ!?」



足元から聞こえた兵の声が聞こえなくなって、ゆきは我に返った。

慌ててしゃがむと、彼の頭を抱え膝に乗せる。


濃厚な鉄の匂い。
そして、足元に広がる紅の水溜り。



「‥‥‥わた‥‥はいい‥‥‥から、ゆきどの、‥‥‥‥‥逃げ‥‥‥」

「喋らないで!」



身体は、小刻みに震えている。
上手く力が入らなくてもどかしい。

震えているのと‥‥‥どくん、と脈打ちながら溢れ出る大量の紅とで、左腕は感覚を無くしていた。

歯で右肩の付け根の糸を噛みながら、ようやく袖を引きちぎる。



「‥‥‥ごめんなさい‥‥」



いつの間にか意識を飛ばした兵の、腹部に巻くには袖など短すぎる。
それでも傷口に当てて上から両手で圧迫した。



(ごめんなさい‥‥‥私、どうにか出来たかもしれないのに)



‥‥‥結界を、張る事も出来なかった‥‥‥。





悔しくて滲みそうになる、涙。

結界なら得意だと言っていたのは自分なのに。



いざと言う時には誰一人守れない。

彼は、こうして自分を守ろうとしてくれたのに。



「ごめんね‥‥‥」




恐怖心すら儘ならない、

自分は無力過ぎた。



「‥‥‥‥‥‥」



懐に手を差し入れながら、ゆきは顔を上げる。



「‥‥‥その眼‥‥何処かで‥?」



下から睨みつけるゆきに、男が唇を歪めた。




眼を逸す事は叶わない。
そんな事をすれば、どうなるか。恐ろしくて考えられなかった。

さっきまで熱で燃える様に熱く感じた体温が、今は儚く感じる程に、寒い。


左腕は相変わらず激しく脈打っていて、剥き出しの傷口からドクドクと溢れ出る朱は止まりそうになかった。

ともすれば意識を失いそうで、痛みと睡魔を懸命に堪えながら、ゆきは男を睨み付けた。



(きっと、一度しかチャンスはない)




今、『私が出来る事』。


それは。



「‥‥‥クッ‥‥‥‥‥‥生きていたのか‥‥‥つまらん、な」



男は歪んだ笑みを浮かべた。
手が刀の鍔に掛かる。




(―――今だ!!)






「臨兵闘者皆陣烈在前!!」






ゆきの声は高く、空に響いた。

懐から取り出した白い呪符から溢れ出す、光。








今、私に出来る事。

それは‥‥‥




(この男の動きを止める事)



倒れた兵がこれ以上、傷付かない様に。
自分も、傷付かない為に。



  


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