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足早に歩く背中を追いかける格好の望美は、小走りになっていた。
黒い外套に包まれた背中からは、何の情報も得る事は叶わなかった。
彼がいま何を思っているのかも、読み取れない。
ただその足が迷い無く一つの方向を目指している事に、望美は気付いた。
陣の外、森に向かって。
(もしかしたら、ゆきちゃんと会っていた場所に向かっているんじゃ‥‥‥)
弁慶相手だと、何もわからなくて悔しい。
もしここにゆきがいたなら。
表情の豊かなゆきなら何かあったのか、何もないのか分かるかもしれないのに。
普段と変わりないこの男から、何かの名残を探す事は叶わなかった。
「弁慶、望美、どこへ行く?」
ちょうど二人を見つけた九郎が声を掛けた。
ざっと見回すと既に他の八葉達も、幾人か集まっている。
「九郎、実は」
「あらまあ。こんな所にまだいらしたんですか、九郎?」
ゆきを探しに行く旨を告げようと口を開いた弁慶を、遮るように政子がゆっくりと歩いてきた。
離れているのに間近に聞こえる、不思議な声。
「政子さん‥‥‥」
「もうとっくに始まっていると思ってましたのに。
早くしないと‥‥‥景時達に戦わせては、可哀相ではありませんの」
「兄上が!?」
「景時さん『達』ってなんですか?」
朔が青褪める。
政子の言葉に疑問を覚えた譲の問いが聞こえていないのか。
朔を見て、優しい微笑みを浮かべた。
「さすがは鎌倉殿の懐刀‥‥‥もう生田に向かいました」
そこで一端区切り、揶揄する様に唇は三日月の形に。
華であり毒でもあるその表情は、確かに喜の感情を露にしていた。
「ゆきさんと言ったかしら?あのお嬢さんも一緒に」
「‥‥‥な、何を仰るんですか!あいつは、ゆきは戦えません!!」
「政子さん!!」
「あらだって、あのお嬢さんは陰陽師なのでしょう?景時の良い手助けになるのではなくて?‥‥‥それに、お嬢さん自身でついて行くと言ってくれたのですわ」
(ゆきちゃん‥‥‥)
「くっ‥‥‥全軍、今すぐ出陣する!」
「待ちなさい九郎。直接生田を目指しても二人の助けにはなりません‥‥‥別の道を行き、背後から敵を攻めましょう」
悠然と陣幕の中に戻っていく政子にも、
今すぐ出陣すると言う九郎に、表情ひとつ変えずに指示を出す弁慶にも、
望美は心底から憤りを覚えた。
「気に食わないね」
「‥‥‥ヒノエくん?」
一瞬、自分の声かと思った望美は、背後に立つヒノエが憮然とした表情で立っている事に気付いた。
「ヒノエ。景時殿とゆきの為には、仕方ないと思うのだが」
「‥‥‥そうじゃない、敦盛。オレ達は結局、鎌倉殿の御温情とやらに踊らされているんだぜ」
(踊らされている‥‥‥私も、皆も)
ヒノエの言葉は望美の心に深く突き刺さった。
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