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「こちらの御方は、兄上の御正室で名代として参られた、政子様でいらっしゃる」
「まぁ、うら若いお嬢さん方がこんな所にいるなんて。驚きましたわ、九郎」
心臓が止まるかと、
思った。
「何と可愛らしいお嬢さん方なのでしょう。九郎も隅には置けませんこと」
「ま、政子様っ。こちらは景時の妹御ですから!」
「まぁ、あなたが景時の―‥‥‥」
「朔と申します。兄がいつもご迷惑を‥‥‥」
「うふふっ。堅い挨拶はいいのよ。こちらこそ、優秀な景時を部下に持てて幸せよ」
政子の笑みに朔は「兄上が優秀‥?」と呟きながら、満更でもなさそうだった。
朔に笑いかけた政子は、ゆっくりとゆきの方を向き、眼を細めた。
「あら、まぁ‥‥‥可愛い方ね」
「‥‥‥っ!!」
途端に血の気が引く。
あの時の、三草山で出会った時の恐怖が体を走る。
「九郎。こちらのお嬢さんは?」
ひた、とゆきを見据えて逸らさない。
金縛りにあったかのように、ゆきも動けなかった。
「九郎。すみませんが緊急な話が―――」
いつになく焦ったような声音で、弁慶が九郎に呼び掛けた。
「ああ、今行く。政子様、こいつは元宮ゆき。陰陽師として来ています」
「九郎!」
「‥‥‥何だ弁慶。政子様に失礼だろう。では、御前を失礼致します」
九郎は、外と言う事もあり政子の許可を得て、立ったまま一礼をする。
そのまま弁慶と少し離れるべく歩き出した。
「朔殿。景時を呼んで来てくれないかしら?」
「はい、かしこまりました」
朔も身を翻した。
そして陣には、政子とゆきの二人きり。
政子は徐にゆきに両手を伸ばすと、柔らかい頬を包んで上向かせた。
うっすらと涙を浮かべて青褪めているゆきを見て、満足そうに微笑む。
「こんにちは、陰陽師のお嬢さん。私、ずっとあなたともう一度会いたいと思っていましたわ」
「や‥‥‥‥‥‥」
「うふふっ。こんなに怯えて‥‥‥何て可愛らしいのかしら?」
政子はゆきの頬を撫でる。
何度も、何度も。
ずっと求めていた理想が、此処にいた。
目を大きく見張らせて。涙を浮かべて。
少しだけ背の高い政子をじっと見るしかない少女が、可愛くて仕方なかった。
政子はそんな彼女の頬に柔らかく口接けて、そのまま耳元で囁く。
「後で、森の奥にいらっしゃいな。いいものを見せてあげますわ」
「‥・いいもの‥‥‥」
「ええ。お嬢さんは陰陽師なのですもの。気配くらい絶てますわね」
ゆきは頷く他に道はなかった。
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