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どうやら和議は本当に行われるらしい。
福原に着いたゆきにそう告げたのは、朔だった。
「頼朝様の御正室である政子様が、名代として参られたんだもの」
「‥‥‥じゃあ、正式に和議になるんだ?」
「そうね。政子様がいらしては、平家側も話し合いを受け入れるでしょう」
「ふうん」
確かに北条政子‥‥‥頼朝の正室がわざわざ福原までやってくるなら、それは和議の為。
平家側としても、ここで無視すれば分が悪くなる事を知っているはずだ。
なるほど、と頷きかけて、ゆきは息を呑んだ。
近付いて、くるものは。
嫌な気配が する
(この気配は、あの時の‥‥‥)
「ゆき?どうしたの?」
朔が蒼白な顔色のゆきに気付いた。
体内を駆け巡る、悪寒にも似た恐怖。
尋常でない「何か」が近付いているのが、ゆきには感じ取れた。
(‥‥‥怖い)
嫌な汗が背中を伝う。
何と言えばいいのだろう。
未知への恐怖、若しくは、異形のものへの恐怖‥‥‥。
「朔‥‥‥私、 「朔殿、ゆき!政子様がお見えになられたぞ」
ゆきの声は
九郎の呼び声の前に消えた。
「今そちらへ!‥‥‥ゆき?疲れたのなら休むといいわ」
「‥‥‥ありがと。大丈夫」
朔の手に捕まって、九郎のいる陣幕に向かう。
入り口でゆきの足は止まった。
視線の先
九郎が最上級の丁寧さでもって相手をしている女。
紛れもない、あの時の‥‥‥
ゆきは知らず、九郎の背後に控える黒套に
縋る様な眼を向けた。
絡まった視線は、彼の方から逸らされた。
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