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はらはらと散るものが静かになった。
‥‥‥やがて残ったのは、花も葉も散った古木。
そして、夢の名残の花びらを肩に積もらせた師弟。
「なかなか可憐な術だったね、ゆき」
「ありがとうございます‥‥‥あの、師匠。私おかしくないですか?」
「おかしい?私の弟子がいつも変わっている事は、よく知っているよ」
「そうじゃないって分かってるくせに」
恨めしそうなゆきの視線を受けて、郁章はにっこりと笑った。
「君が知りたい事は、君の最近の力の違和感だね?」
「‥‥‥はい」
「そして私がその答えを持っていると、思っているね?強すぎる君の呪力の理由を」
「わかるんですか?」
延々と続きそうな郁章の謎かけに、付き合っていられる余裕など、今のゆきにはない。
それが伝わったのだろう。
陰陽術の師たる青年は、少しおどけた表情で目線を合わせる。
「簡単な事だよ。君と私は同じ『気』が流れているからね。君の事など手に取る様に分かるよ」
「‥‥‥はあ?同じ気?」
ゆきにはそんなもの、感じた事はない。
師と同一の気など。
「本当に今まで気付かなかったのかい?元宮ゆき」
どうしてだろう。
師匠は笑みを浮かべているのに
‥‥‥身体に束縛呪を掛けられているように、動かない。
「し、しょう」
「‥‥‥元宮‥‥‥いや、安倍ゆき。君にも安倍晴明の呪は流れているよ」
「‥‥‥安倍晴明の、呪?」
何故ここで、古の大陰陽師の名が出て来るのだろうか。
「ゆきの父君は、安倍泰明と言うね?」
「はい」
「安倍泰明は先々代の地の玄武として、その記録が残されている」
「記録‥‥‥師匠が前にくれたあの本は‥‥‥」
「君の父君の事だよ」
事も無げに郁章は告げた。
「君に流れている力は、君の父君のもの。君の父君を生み出したのは‥‥‥もう分かっているね?」
あの書を読んだろう?
暗に問い掛けられ、ゆきは眼を見開いた。
「まさか、それが‥‥‥安倍晴明?」
「そう。君の父君は、安倍晴明が作った人形だった」
ゆきが何となく想像していた事を、郁章が口にする。
『人形』
そして、安倍晴明の強力な陰の気によって生まれたのだと
母である先々代の白龍の神子と愛し合い、遠く時空を超えた世界へ旅立ったのだと。
(やっぱりお父さんが陰陽師だったのは、安倍一族だったから)
父親のルーツが分かって、ゆきはただ嬉しいと思った。
人形だったとしても、ゆきの知る父はとても優しかったから、構わない。
京に来て、龍神や白龍の神子やら八葉やら陰陽師やら
‥‥‥かなり現実離れな現実を見てきたのだ。
今更父が人形だったと聞いても‥‥‥驚きこそすれ、嘆いたりなんてしない。
(お母さんの愛が、お父さんを人間に変えたんだもんね)
それは何と素晴らしい事なんだろう。
ゆきはまだ、そこまで想う愛情を知らないけれど。
いつか、それほどに愛する人が出来たなら‥‥‥。
「でも、君が急に強くなったのは」
そして。
土御門郁章は、尚も語る。
恐らくゆきにとって、衝撃の事実を。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「嘘でしょう?師匠‥‥‥」
「嘘であれば良かったかな?だが、君は」
両手で自身を掻き抱くゆきに、醒めた眼で師たる青年は続けた。
「‥‥‥とっくに知っていただろう?」
‥‥‥真実は、何よりも強い刃となってその身を傷付ける。
(怖いよ、弁慶さん‥‥‥)
無意識に求める名は、いつだって。
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