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「ええっ?頭領が不在?」
やっとの事で本宮に着いたと思ったら、頭領は速玉大社にいると告げられた。
用事を済ませて後から帰って来たヒノエに、弁慶が説明する。
「オレは初耳だけど?」
と何とも言えない怪訝な顔をしていたが。
一行は、速玉大社に向かう事にした。
「望美ちゃん、綺麗!」
「‥‥‥ありがとう、ゆきちゃん」
九郎との約束‥‥‥懇願通り、速玉に着いた翌日、望美は姫君の格好をした。
朔の手により着付けと化粧を施された望美は、とても剣を振るって怨霊と戦う少女には見えない。
「綺麗なお姫様だね‥‥‥元がいいもんね、望美ちゃん」
「あら。ゆきもお姫様になる?」
朔の言葉にゆきはふるふると首を振った。
「いいよ。そういうのは彼氏が出来てからに取っておくから」
と言い、でも‥‥‥と続ける。
「でも、綺麗な望美ちゃんを見せびらかして来てもいいかなっ?」
「ええっ?ゆきちゃん、危険だから‥‥‥」
「ふふっ。あまり遠くへ行っちゃ駄目よ」
「は〜い!!」
「ちょっ、朔?‥‥‥ゆきちゃん、待ってっ!?」
「行ってきますっ!!」
望美はゆきに拉致されて、町に飛び出した。
「お嬢さん、ちょっと一緒に来てくれないか」
何度運命を繰り返しても代わり映えなければ捻りもない、海賊の台詞に望美は呆れた。
いつもぶった斬ってやりたいと思うのだが、この格好に刀は似合わないと朔に取り上げられてしまうのだ。
だが、今回はゆきが一緒。
どうにかして、彼女だけは無事に逃がさなければ‥‥‥。
実力行使に出るか?
‥‥‥いや、危険過ぎる。
失敗してしまえばそれこそ、ゆきの身が危ない。
どうすればいいのか。
考えを巡らせた望美の耳に、小さな呟きが聞こえた。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
‥‥‥どうやら同じ事を、ゆきも思っていたらしい。
望美の位置から、後ろに回したゆきが手印を結ぶのが見える。
「・・・束縛して!」
(束縛『して』って、誰にお願いしてるの?)
思わず突っ込んでみたくなる望美だった。
「うっ‥」
「‥‥‥‥っ!?」
彼女の唱える九字が終わったと同時、族達の身体に起きる異変。
三人の男達が、一様に動けなくなっていた。
(鞍馬の天狗がやっていたのと同じ)
望美は眼を見張った。
「ゆきちゃん?」
「動けない間に早く逃げよう!」
「‥‥‥うん!」
男達が動けない間は、あと僅かな筈。
生身の人間に束縛をかけるのが初めてなゆきは、冷や汗を掻いた。
束縛だけでない。
陰陽術に心得のない者に術をかける事、それすら初めてで‥‥‥。
よく動揺せずにいられたと、自分で感心した。
「望美ちゃん!捕まって!!」
着物の裾が長くて、走りにくい望美。
ゆきはその手を引いて走り出す。
‥‥‥が、角を曲がった所で、繋いでいない方のゆきの手をぐいっと引っ張られた。
「うっ」
ゆきは小さな悲鳴を上げた。
「ゆきちゃん!!」
「おぉっと、待ちな。随分舐めたマネしてくれたじゃねぇか」
(嘘!?まだ仲間がいたの?)
うなじに強い衝撃を感じたゆき。
意識を失う寸前に見たものは、荷物の様に抱えられた望美の姿だった。
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