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「じゃあ、オレは行くわ」

「もう行くのか?」

「ああ。最初から本宮まで、と約束してただろう?」

「それはそうだが‥‥‥」


相当気が合ったのだろう。

別れを惜しんでいるように見える九郎の肩を、将臣はバシッと叩いた。


「なぁに、また会えるさ!ここでこうして会えた位だからな!」

「まぁ‥‥‥それはそうだな」


納得して頷いた九郎にもう一度肩を叩き、そしてゆきの前に立つ。


「ゆき」

「気をつけてね、将臣くん」

「兄さんなら大丈夫だよ、元宮」

「‥‥‥うん、そうだね」


(お願い。平家だとバレませんように)


どうか、この先も。
彼が無事でありますように。

と、心の中でゆきは手を合わせながら、将臣を見上げた。



(そっか。ゆきは俺の心配をしてるのか)


将臣はフッと笑うと、ゆきの頬に手を添えた。


「そんな顔するくらいなら、一緒に来るか?」

「‥‥‥‥‥‥へぇ?」

「馬ぁ鹿。冗談だ」


きょとんとしたゆきの表情に答えを見つけた将臣は、誤魔化すように頬の手を頭に移動した。

ポン、と手を当てる。




(そんな眼をしなくても連れて行くかよ‥‥‥連れて行ける訳ねぇよ、弁慶)


将臣は一人ごちる。

望美を見ると、こちらも凄い眼で睨んでいた。
苦笑しながら彼女に向かい、空いた手を上げる。



「じゃぁな!ま、そのうち会えるかもな!」



ゆきの頭を力強く撫でながら。


「い、痛い痛い!」

「気にすんな!じゃあな!」




手を放し、歩き出した。


「兄さん!生水には気をつけろよ!」


相変わらず母親みたいな譲に苦笑しながら、振り返らずに手だけを振る。



目指すは、本宮。











「行っちゃったね〜、将臣くん」

「嵐のようにやって来て、嵐のように去って行ったな」


景時と九郎がぼそっと呟くと、一同は笑った。











将臣から遅れる事暫く。

一行は本宮の森を歩いていた。


「あ‥‥‥」

「ゆき?どうしたの?」


ふと立ち止まったゆきに、隣を歩いていた朔が尋ねる。

ゆきはと言えば、思案の表情を浮かべて背後のヒノエを捉える。



「う〜んと‥‥‥これ、結界だよね?」

「‥‥‥ご名答。本宮には強力な結界が張られているよ」


しかもご丁寧に、ヒノエに聞いている。


「そうじゃなくて、結界‥‥」


何かを訴えようとしているゆきの視線に、ようやく気付く。




‥‥‥怨霊たる敦盛は結界を通れない。




もちろんゆきは、ヒノエが敦盛の秘密を知っている事を、知らない。
だから、敦盛の事を言いたくとも何も言えないのだろう。



「敦盛さん、手を繋ぎましょう」



(へ?)


望美が敦盛に手を差し出すのを見て、ゆきは首を捻る。



「いや‥‥‥神子、私は‥‥‥」

「いいからいいから」



恐縮している敦盛の手を強引に掴むと、望美は彼を引きずって歩いた。



「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」



白龍の神子の神気により、手を繋いだ敦盛が難無く結界を通過していくのを、ヒノエとゆきは感心しながら見ていた。



突然の望美の奇行に、朔や九郎達はびっくりしていたが。


‥‥‥譲だけは違う表情を浮かべていた。






  
 


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