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日置川の峡谷に差し掛かった。
美しい滝景色に癒される筈だが、急な登り坂に景時はげんなりしている。
「きっついな〜。日差しも強いし。皆、平気?」
額の汗を拭いながら、景時が聞いた。
日は高く登り、遠慮のない光と熱が体力をどんどん奪う。
「こんなのがまだまだ続くのかい?」
「そうですね。もう暫くは我慢して下さいね」
聞かれた弁慶と言えば、涼しい顔で、足場の悪い山道を登っていた。
(ま、まだ登るの‥‥?もう、限界‥‥‥)
いくら元気になったと言っても、限度はある。
足場が悪く、キツい登り坂にゆきのペースは落ち始めた。
先に行って貰おう、と思った時、ゆきの手をぎゅっと繋ぐ二つの手。
「ゆきちゃん」
「ゆき、手をつなごう」
「望美ちゃん、白龍‥‥‥ありがとう」
嬉しくて、ゆきはにっこりと笑った。
(あれ‥‥‥確か、この道って‥‥‥)
「気が‥・乱れ出した!」
望美が首を傾げた時、白龍が不安そうに叫んだ。
「望美ちゃん危ない!!」
望美に近付く殺意に反応したゆきが叫ぶ。
直後吹き荒れた突風。
望美はハッと気付いた。
(これはっ‥‥‥!)
「クククッ‥‥‥‥‥‥死ぬがいい、―――神子!!!」
何処からか、怨念の籠もった女の声が聞こえる。
と同時、望美を狙う──突風。
(このままだとゆきちゃんを巻き込んじゃう!)
望美はゆきを、崖のない方へと思い切り突き飛ばした。
「うわぁっ!!!」
「望美ちゃんっ!!?」
全身に悪意の籠った風を受け、崖から墜ちて行く。
(ゆきちゃん来ちゃダメ!!)
ゆきが崖から飛び込もうとするのを見て、望美は強く願った。
(‥‥‥私なら大丈夫だから)
望美は強く目を閉じた‥‥‥
墜ちて行く意識の中、自分をいつも守ってくれる彼の存在を待ちながら。
「望美ちゃんっ!!」
突き飛ばされたゆきが望美を助けようとして、崖に飛び込もうとする。
‥‥‥その寸前で、弁慶は抱き留めた。
「君が飛び込んでも何も出来ないばかりか、かえって足を引っ張るだけです」
放して!と暴れるゆき。
力ずくで押さえ付けながら耳元で話し掛ける。
「そう、だけど‥‥‥でも!」
ハッと我に返ったゆきの身体から、力が抜けた。
弁慶はゆきを抱いた腕に一層強く力を込めて、震えるその背中を撫でてやる。
「ヒノエ、降りる道はないのか!?」
「こっちだ」
ヒノエの先導で崖の下に走り降りる譲達。
いっそ滑り降りると言ってもいい速度。
それらに漸く気付き、弁慶はゆきを解放した。
「僕達も行きましょう」
「‥‥‥はい!!」
どちらからともなく差し出された、手を
‥‥‥堅く繋いで、走り出す。
さっきは気付かなかった、溢れる神気。
感じたゆきは、ホッとする。
望美はもう大丈夫だ、と。
ACT21.流るる言葉と繋いだ手
20071013
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