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朝もまだ早い時刻。

出発した一行は本宮に向かって最短距離を進む。


熊野路に差し掛からんとした時、一人の貴族の男に呼び止められた。

法皇の命により、この道は通行止めになっていると。



「あんのクソ狸ジジィ」

「の、望美ちゃん‥‥‥あはははは!」



小さな望美の呟きを聞いてしまった唯一の人間‥‥‥ゆきは爆笑してしまい、九郎に睨まれた。







「新熊野権現から南に伸びる海沿いの道がある」



そこをまわれば勝浦から本宮へ行けるはずだ、と敦盛が説明すると、全員一致で決まった。













「凄い!断崖絶壁ってやつだよね」

「ああ、ここは三段壁って言って、熊野の名所のひとつだね」

「へぇ‥‥‥」



ゆきとヒノエ、そして望美が海を指差しては、楽しそうに話している。

完全に行き先や目的を忘れている二人の少女。




その様子を見た弁慶は、内心笑いながら足を止めた。



「朝から歩き詰めで疲れたでしょうし、少し休憩しましょうか」

「おい、弁慶―――」



唐突の休憩宣言に、先を急ぎたい九郎は異論の声を出す。

だが、弁慶の眼差しによる制止を受けて口を噤む。

‥‥‥危うく忘れてしまう所だった。
旅に不馴れで無理をするとすぐに熱を出す、ゆきがいる事を。



「そうだな、少し休憩しよう」



九郎が言うと、途端にゆきと望美の顔が輝く。



「ヒノエくん!」

「ヒノエ!」



二人はヒノエを向いて、お願い!と声を揃えた。



「三段腹を案内して!」

「‥‥‥元宮、腹じゃなくて壁だろ?」



譲の冷静な一言に笑いながら、ヒノエは了解と告げた。



「休憩にならんだろうが、ゆき」



九郎の呟きは誰も聞いていなかった‥‥‥。










ゆきの笑顔を横目で見て、弁慶は景時に目配せをする。

景時から、了解の合図。


後はどうやって、見つからずに二人で抜け出せばいいか。


‥‥‥と、思った弁慶達の元にゆき声が響く。



「三段壁を見に行ってきまーす!」

「あまり遠くまで行かないで下さいね」



は〜い!と元気良く返事を返して、ゆきと望美は有川兄弟、ヒノエと敦盛と歩いて行った。

‥‥‥弁慶にとって好都合。



「先生。稽古をお願いします」

「ああ、構わない」



九郎とリズヴァーンは稽古を始めた。



「あれ?朔は皆と行かないの〜?」

「私はここで休憩しているわ、兄上」

「‥‥‥では、僕達も席を外しますね」

「ええ」




景時と今後の事を話し合わなければならないのだ。





 


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