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「あ、丁度いい所に来たよ!」
手を振るゆきに釣られて見れば、こちらに向かう二人。
その内の一人に見覚えがあったが、このような場所での再会な為、敢えて声をかけない。
彼も知り合いだという素振りを見せない。
が、一瞬だけ、敦盛の手元を見て眼を細めた。
視線に気付き、繋がれたゆきの手をそっと離す。
「待たせてごめんね、ゆきちゃん」
「ううん、私は大丈夫。じゃあ、朔と白龍の所に行っておくね」
「分かりました。もうすぐ帰還するので、ゆきさんも準備をしておいてくださいね」
少女の代わりに男が返事をして、立ち上がったゆきの頭を軽く叩く。
「べっ弁慶さんっ!‥‥‥じゃあ、敦盛くん後でね!」
ゆきは真っ赤な顔で頷き、敦盛に手を振った。
「あ、ああ‥‥‥」
それからすぐに、紫苑の髪の少女からとんでもない事を聞かされる。
「そんな事がある筈はない。八葉とは龍神の神子に仕える、神気を持った存在だ‥‥私には関わりない」
「でも、皆と同じ八葉の宝玉があるんですよ、敦盛さん」
「あなたにはこれが見えるのか‥?」
自分が、八葉だと。
俄かには信じられなかった。
弁慶は、何も言わずにただ敦盛の診察をしている。
「でも、事実なんです。敦盛さんは天の玄武。私達と共に戦って欲しいんです」
もう少し考えて下さい。
そう言って頭を軽く下げ、望美と名乗った少女は踵を返した。
一旦、帰還するとなったらあっと言う間に準備を終え、時間が掛からずに出発をした。
丹波道を抜け、京へ帰る。
源氏に捕らわれた平家の兵達も、一旦は京に向かう。
ゆきが列の後尾に視線を巡らせれば、ヒノエが敦盛と話をしていた。
あんな怪我をしたのに、もう普通に歩けるなんて、凄い回復力だとゆきは感心する。
‥‥その時。
ゆきの肌を突き刺すような気配が掠めた。
咄嗟に、隣を歩く九郎の腕を掴む。
「どうした、ゆき?」
「九郎さん!怨霊が近付いてる‥‥‥」
「なにっ!?」
グギャァァァ!!
九郎達の背後、樹々の間から数体の怨霊が姿を現した。
すかさず皆が得物を構える。
「平家が撤退の折に撤収仕切れなかったはぐれ怨霊でしょう」
弁慶が薙刀を持ち替えながら事も無げに話す。
「やはり‥‥来てしまったか。私が、あれと戦う」
言うが早いか敦盛は怨霊に向かい一撃を繰り出す。
自分の身長より長い杖を軽々と振るい、戦う彼は強くて、ゆきは驚いた。
さほど疲れていない皆と力を合わせ、あっと言う間に怨霊を倒した。
「めぐれ、天の声
響け、地の声
――かのものを封印せよ!」
辺りの空気が清浄な気に満ちて、一息ついた時
望美の正面に敦盛がやってきた。
「‥‥‥あなたの戦いに、私も加えて貰えないだろうか?」
「私達と一緒に怨霊と戦うって事ですか?
じゃあ、これからは仲間ですね!」
「仲間‥‥‥私が?そんな事を言われるとは、思ってもみなかった‥‥‥」
『仲間』
自分には相応しくないかもしれない。
だが、共に戦うのならば仲間と呼ぶのだろう。
敦盛は望美に、小さく頷いた。
「怨霊とは存在自体が、辛く‥‥悲しいものだ。私は全ての怨霊を浄化し、安らぎを与えたい‥‥‥たとえ一門に、背く事になっても‥‥‥」
敦盛の眼は一点の曇りも無く、それはそのまま彼の決意と同じなのだろう。
彼が怨霊だと知るゆきは、『全ての怨霊』の中に、彼自身も含まれているような気がした。
「源氏の陣に加わると言う意志、間違いないな」
「‥‥ああ」
大将である九郎の問い掛けに、敦盛は頷く。
九郎は、暫く真っ直ぐ彼を見て、ふっと息を吐いた。
「わかった。ならば、認めよう」
途端にその場の張り詰めた空気が解ける。
「良かったね〜」
「‥‥ああ」
景時が敦盛の肩を叩くと、真面目に頷く。
そして視線を巡らせ、ゆきを見つけ数歩、歩み寄った。
「さっきは世話になった‥‥‥その‥」
「うん、約束だね!よろしく!」
「ああ、‥‥よろしく、ゆき殿‥‥‥‥‥あ」
「‥‥‥‥敦盛くん?」
「あ、ああ‥‥ゆき‥‥‥‥」
いつの間に名前で呼び合っているのか。
疑問符が飛び交い、思わず顔を見合わせた面々を余所に。
敦盛とゆき、リズヴァーンと白龍は、仲良く丹波道を先に歩いていった。
ACT18.存在する理由なら
20070921
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