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「弁慶さん、ほんと苦しいですから放して・・・」
さっきからゆきをきつく抱き締めたまま返事がない。
弁慶の胸を叩こうとするが、腕ごとしっかり押さえられて身動きも出来ない。
(どうしよう)
心臓の音が大きく響いて弁慶に聞こえないか、とハラハラした。
抱き締められた時と同様、唐突に腕から解放された。
強い圧迫感から自由になったゆきは肩で息をする。
何か誤解をさせてしまったのかも知れない。
だから弁慶は怒っているのかも知れない。
「弁慶さん、あの」
きちんと話をしようと顔を上げて、固まってしまった。
目の前の至近距離に、ゆきより色素の薄い双眸。
自分よりもずっと綺麗な顔が迫っていた。
(あの時の眼だ・・・)
またキスされてしまう、とゆきはぎゅっと目を瞑り、身を竦める。
そんな彼女を見て弁慶は吹き出した。
「べ、弁慶さん?」
「ふふっ、何を想像したんですか?」
「・・・・・・なっ・・・想像!?」
「いけない人ですね、君は」
「何も考えてませんっ!」
「・・・・・・ここは男として、君の期待に応えなければいけませんね」
「結構です!!」
顔を真っ赤にして怒るゆきに、笑う弁慶。
完全にからかわれているゆきだった。
(何なのこの人!?)
追い詰めてきたかと思えば
からかったり
冷たい態度を取るくせに
不意に優しくしたり
本当に訳がわからない。
「弁慶!来てくれないか?」
陣の中央から九郎と景時が、弁慶を呼んでいた。
そろそろ軍を動かさねばならない。
弁慶は腰を上げた。
「では、僕は失礼しますね」
未だに笑いながら、弁慶は席を立った。
結局、肝心な事は言えないままだった。
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