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どれほど佇んでいただろう。


涙が止まりかけた頃、突然身体が震え出した。


背後からは、尋常でない『気』。





「あらあら、お嬢さんがこんな場所に、ひとりでいてはいけないわ」



気配などなかったのに。


突然背後から聞こえた柔らかで、何処か恐ろしい声。



呪符を出す事も叶わず、ゆっくりと振り返るしかないゆきが見たのは

緩やかな波を打った髪の、美しい女性だった。



「あなたは‥‥‥‥‥?」



ゆきは呆然と尋ねた。



「あら、可愛いお嬢さんね。こんな所で何をしていらっしゃるの?」




‥‥‥怖い





優しげな女性なのに、恐ろしい程の何かが、ゆきを圧迫している。


逃げ出してしまいたいのに、足が竦んで動けない。

目が、離せない‥‥‥




「‥‥‥そう。お嬢さんには感じるのね‥‥」

「あ‥‥‥」




ゆっくりと近付いてきた『女』は、ゆきの両手を取り、自分の唇に寄せた。


明らかに、何かが違う。



怨霊や術などではない、異質なもの。






彼女はゆきの手を離して、そのまま腕を伸ばした。

ゆきの頬に手をあて、にっこりと笑った。





「―――っ!いやあぁぁぁ!!」






全身に異物が捩じ込まれた様な感覚。
ゆきは悲鳴をあげる。


そのまま全身の力が抜けた彼女を、『女』は痛ましげに見ていた。



「辛かったかしら?ごめんなさいね‥‥‥‥でも、そう。あなたが‥‥」



そこでふと顔を曇らせる。



「しばらくすれば動けますわ。また会いましょうね、お嬢さん」



現われた時と同様、突如、気配は消えた。




地面に手をついたままのゆきは、視線で追う事すら、出来なかった。










兵が放心状態のゆきを見つけたのは、

厠へ行くといってから随分時間が経ってからの事だった。









ACT16.澄んだ白銀の雫


20070902

 


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