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「行かなくていいのか、弁慶」
「今は一人で泣きたいでしょうから」
「‥‥‥‥なら、俺が行こうか?」
「‥‥‥‥九郎?」
「冗談だ」
『人がいる場所の方が、却って聞き耳を立てられませんから』
と弁慶が言うから、内密の話をしにやって来た神泉苑で、図らずも一部始終を見てしまった。
(ゆきは譲が好きだったのか‥‥‥)
譲の姿が消えてすぐに、ゆきは声を忍ばせるように泣き崩れた。
壊れてしまいそうな彼女の姿に、九郎は胸が痛む。
こんな時、きっと自分じゃ力になれないと、解っている。
ゆきを大切に思うのに、こんな時には役に立てない。
‥‥少しして、隣の男は静かに言った。
「九郎」
「なんだ?」
「先に‥‥帰ってて下さい」
「‥‥‥‥わかった」
「くれぐれも譲くんに、手出ししてはいけませんよ?」
「わ、解ってる!お前こそ後で譲に‥‥」
「しませんよ、馬鹿馬鹿しい」
言葉とは裏腹に、弁慶の表情は冷たい怒気を帯びていた。
辺りはすっかり赤くなり、気が付くと夕方になっていた。
最初は溢れる様に出た涙も、泣き止んでしまうにはそんなにかからなかった。
それからは、ただぼんやりと池を眺めている。
神泉苑‥‥‥神の池。
本来なら龍神の神子が異世界からやってくる所。
望美ちゃん
大好きなのに、
望美ちゃんは何一つ悪くないのに
一瞬でもあなたがいなければ、と思ってしまった。
守りたいって思うのに。
再び涙が滲み出したその時、
「ゆきさん」
聞きなれた、優しい声がした。
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