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「元宮、明日の買い物付き合ってくれないか?」

「私?いいけど‥‥‥望美ちゃんを誘わないの?」



本当は嬉しいくせに、

わざと貴方の本音を暴こうとして


私って素直じゃない。



「‥‥‥‥春日先輩は明日、リズ先生と剣の鍛練だってさ。白龍と朔付きで」

「そっかあ‥‥‥て言うより私、二番目の女?」

「何の話なんだよ?」

「本妻が駄目なら愛人、みたいな?私、愛人だったのね!ひどいわ!」

「愛人ってあのなぁ‥‥‥元宮は友達だろ?」

「あははっ、そうだね。友達‥‥‥‥って、ノリが悪いから有川譲!」

「はいはい。じゃあ、朝ご飯の片付け終わったら出発な。よろしく、元宮」

「へーへー」




私の、嘘つき。


友達だって思ってないくせに。




後で自己嫌悪に陥るくせに、

望美ちゃんの名前を
口に出さずにいられない。



あなたの中の彼女の存在を
確認せずにはいられない。





‥‥‥‥‥こんな事なら、いっそ‥‥‥
















ACT14.優しいキスをして






「もう皆、出払った後だな」

「今日はみんな早いなあ。珍しいよね」



二人が出発する頃には、もう京邸には誰もいなかった。
九郎と弁慶と景時は、次の戦の準備で早朝から出ている。
リズヴァーン達は朝食後すぐに出かけて行った。

ヒノエは、「ちょっとヤボ用」と言っていたから、恐らく六波羅のアジトにでも行ったのだろう、とゆきは密かに思う。



「そろそろ行こうか、有川くん」

「そうだな。その前に、五条に寄ってくれないか?
新しい矢を貰いに行きたいんだ」

「いいよ。行こう」



屋敷を後にした。



からりと晴れた青空の下、ふたり肩を並べて歩き出す。
もう梅雨に入る頃だろう。最近は雨がちらつく事が多くなっていた。

京で、晴れた日で、緑。

それは幼いゆきが両親と、日暮れまで遊んだ公園を思い出してしまう。
もう失ってしまった、溢れる程の愛情に包まれた、幸福な日々を。


こんな風に思い出すのは、同じ世界にいた譲が、一緒だからなのか。
それとも、父と母がこの時空で、何らかの関わりがあったと知ってから、ずっと頭を過ぎっているからだろうか。




隣を歩く譲はいつもと変わらず、皆の好き嫌いの話をしている。



「有川くん、お母さんみたい」



とゆきが言うと、譲は固まった。



「冗談だって、ごめんごめん」



その姿がおかしくて、ゆきはクスクス笑う。




他愛もない話を、二人だけでする。
あの世界で、学校にいた頃の様に。

彼と離れて一年半以上。
こんな時間をどれほど望んだ事だろう。


なのに、その願いが叶った今、

………ゆきはこの恋の終わりを、願っていた。



「元宮はさ」

「何?」



さっきまでと明らかに違う声の調子に、ゆきは思わず譲を見る。
すると譲はためらう様な口調で話し始めた。



「もし、全てが終わって俺達の世界に帰れるようになったら…どうする?」

「……え?」



ゆきはぴたりと足を止めた。
空耳かと、まず自分の耳を疑い、それから譲を凝視する。
譲はじっとゆきを見下ろしていた。





私は、どうしたいのだろう?






譲と望美と将臣と、帰るのか。

………帰って、どうすればいいのだろうか。

もうゆきの家族はどこにもいないのに。



両親も、母の姉も、もうあの世界にはいない。



「分からない」



ぽつりと漏らしたゆきの声音が苦しそうで、それ以上譲は何も言えなかった。








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