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‥‥気配は無くなったと思ったのに。
『我の術を解くとは、やはり一筋縄ではいかんようだな。安倍の人形の、娘』
不意に降り懸かる声に、皆は構えた。
「‥‥‥人形の娘?誰の事?」
望美がきょとんとして問い返す。
「さっき呪縛してきたのは、あなただね!」
ゆきが辺りの気を探りながら叫んでいる。
「呪縛したのはさっきの怨霊じゃなかったのか?」
「譲、違うよ。さっきの怨霊より、強い力を持つ者」
譲の問いに白龍が答える。
「景時、上だ!」
ヒノエが上を見ながら声を張り上げた。
景時がすかさず銃を構える。
「ゆきちゃん!」
「はい!」
景時の隣に立つゆきの手には呪符。
ひとつに結んでいた彼女の髪がほどけて、風にたなびいている。
「いきますよ!」
「うん、いいよ!」
「「臨兵闘者皆陣烈在前!!」」
声を揃えて同時に早九字を唱えた。
二人から発せられる金と火の力の奔流が、真っ直ぐに相手の元へ走る。
爆発の閃光と、低い衝撃音が山全体を包んだ。
「うわっ!」
「きゃっ!!」
「大丈夫ですか、先輩!」
咄嗟に譲が望美と朔を背後に庇う。
ヒノエは目を細めて、どこか面白そうに眺めていた。
だが。
閃光の名残が失せると、また声がした。
『娘、お前は父親に似ず面白い術の使い方をする』
「効かない‥‥」
「嘘だあ‥‥」
陽光に輝く蒼白の翼を持つ異形の存在。
「‥‥‥‥天狗?‥‥」
九郎が、信じられない、と呟いた。
見た事のないその姿。
鞍馬に住んでいた時に聞いた事がある、半ば伝説になっている存在。
翼を持つ異形の天狗は、その端麗な顔をゆきに向けた。
『力を試した甲斐もあったというもの。父譲りだな』
「‥‥‥父‥?ってなんの事‥‥」
『‥‥‥娘、もう気付いている筈。認識する事を恐れているのであろう?』
「ゆきちゃん‥‥どういう事?」
「‥‥‥‥‥」
ゆきを振り返った望美は、愕然とした彼女の表情に出会った。
『また、会おう。安倍の娘』
「待って!!」
ゆきは、飛び立とうとする天狗を呼び止めた。
だが、何を聞けばいいのか。
聞きたい事がありすぎて、何から言えばいいのかわからない。
激しく動揺したゆきの頭の中に、声が響いた。
周りに聞かれぬ様に。
『また訪ねてくるがいい。我を縛する事が出来たなら、問いに応えても良い』
「‥‥‥‥‥っ!!」
『もっとも今のお前の力では、我の翼すら縛れまいが』
「なっ‥‥‥!」
今度こそ、天狗は消えた。
悔しそうに唇を噛み締めるゆきを残して―――。
「‥‥‥ゆき、お疲れさん。帰ろうぜ」
「帰るぞ、ゆき」
ヒノエと九郎がゆきの横を通り抜け様、頭を撫でて行った。
「‥‥‥うん」
(今日はやたらと頭を撫でられる日だな)
ゆきは、何やら焦点のずれた事を考えていた。
それこそが彼女らしい、と周りは言うかもしれない。
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