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翌日
「こうやって遠巻きに見ると、凄い派手な集団だね‥‥‥」
「ゆきも今帰ってきたのかい?」
「うん、皆もお帰りなさい」
朝から、怨霊退治に出かけた望美達が京邸に戻る。
丁度ゆきが土御門邸から帰って来たのと、同時だった。
門前で、ばったりと出会ったゆきに、譲が話し掛ける。
「皆に話してた所なんだけど、今日は俺達の世界の料理を作るから楽しみにしてろよ」
「本当?何を作るの?」
輝くゆきの笑顔に、満足そうに譲も笑う。
「秘密」と言ってやれば頬を膨らませた。
「譲くん、私も手伝おうか?」
「大丈夫ですよ。春日先輩、ゆっくりして下さい」
「じゃあ、お言葉に甘えて、楽しみにしているね」
「ドリアだ‥‥凄い‥‥‥」
「美味しい!」
皆の絶賛を受けて、譲は照れている。
「この世界にもガーリックがあるんだ」
「はい。主に薬として使われてるようですけどね。弁慶さんに分けて貰ったんですよ」
「へえ、そうなんだ?」
「譲くんが料理に使う、と言ったので少し驚きました」
望美が美味しそうに食べる。
「‥‥‥元気が出て良かった」
「‥‥え?」
「先輩、この所疲れているようでしたから」
譲は穏やかな口調で告げる。
望美は一瞬、顔を上げて譲を凝視した。
そのまま視線を彷徨い、俯く。
「ごめんね」
やがて発せられた言葉はひどく弱くて、聞いているゆきの心も痛んだ。
「この世界に来たのは、私が白龍の神子になったせいなんだよね。譲くんとゆきちゃんを巻き込んじゃったんだ」
「どうして謝るんですか」
ゆきが何か言うより早く、譲が望美に膝を向ける。
「先輩がこの世界に一人で来る方がよっぽど心配です‥‥‥‥一緒に来られて、むしろ良かったですよ」
何しろ先輩は警戒心も薄いし、すぐ忘れるし‥‥‥と譲がからかい、
望美が「そんなに頼りなくないよ!」と赤くなっている。
彼が白龍の神子である望美をどれほど想っているのか。
譲の表情だけで、誰でも解る。
愛しそうに、望美を見つめていた。
「‥‥‥あの戦場に先輩が一人で来ていたらと思うと‥‥‥俺は‥‥‥」
「譲くん‥‥」
譲も望美も箸を止めて、ただお互いを見ていた。
そんな二人を直視出来ず、ゆきは膳に目を落とした。
(さすがにキツいかな)
始めから、この恋の結末なんて解っている。
それでも
叶うなら、逃げ出してしまいたかった。
向き合う勇気が、ないから。
「ゆきさん」
「あ、はい」
隣を上げると弁慶がじっと見ていた。
「すみませんが、早く食事を済ませて、薬を作るお手伝いをして頂けませんか?」
「薬ですか?いいですよ」
「ありがとうございます」
即答したゆきに、にっこり微笑み、弁慶はその綺麗な顔を寄せた。
彼の行動についていけないゆきの耳元で一言。
「そんな顔をしていたら、二人に気付かれてしまいますよ」
「‥‥‥‥なっ!‥」
ゆきにしか聞き取れない小さな言葉を発した後に、頬に触れた生温い感触。
(へ?)
「ふふっ」
何をされたか、頭が全くついていかないゆきを見て、晴れやかに隣の弁慶が笑っていた。
やけに楽しそうに見える。
「弁慶!お前何をっ!!」
目の前で繰り広げられた光景に、九郎が箸を持ったまま目を丸くしていた。
望美や朔達も何事かと、彼らを見た。
「すみません、こんな場所では控えるべきでしたね‥‥‥‥でも、ゆきさんがあまりに可愛いので、つい」
「お前は‥‥」
面白そうな顔で再び箸を取る弁慶に心底呆れて、九郎はまだ固まったままのゆきに気遣わし気な視線。
「‥‥‥ゆきは嫌ではないのか?」
「‥‥‥は?」
嫌かと問われて初めて気付いた。
(もしかして、さっきのって‥‥‥)
「ぎゃぁぁぁっ!!」
思わず箸を放り投げて叫んでしまった。
思い切り投げられた箸は、正面の譲と景時の間を抜けて背後の壁に衝突した。
(ほっぺちゅーじゃないですか!!)
よりにもよって皆の前で。
よりにもよって‥‥‥‥‥譲の、前で。
本気で泣きそうになったゆきを見て、弁慶は優雅に笑った。
ACT12.揺れる思い
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