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陽光はゆき達の頭上に輝く。


嵐山まで、あと少し。




時空を超えたあの世界で、
ゆきが両親と、幼い頃を過ごした嵐山。












ACT12.揺れる思い







「嵐山って、私達の世界でも凄く有名なんだよね、譲くん!」

「そうですね。俺達の世界では紅葉の名所ですし」

「ここも桜や紅葉を求めて、昔から多くの人が訪れているんですよ」



望美と譲、弁慶が先頭を歩きながら、嵐山について話し合っている。
少し後を、朔と手を繋いだ白龍、リズヴァーンとヒノエと景時がのんびり歩く。


ふと、ヒノエは足を止めて後ろを見た。

ゆきが上の空でついてきている。
が、皆よりどんどん離されている事などまるで気付いていない。

このままだと見失ってしまいそうなので、ヒノエは引き返した。



「ゆき?」

「‥‥‥ヒノエ。何?」



顔を上げたゆきから違和感を覚えた。



「‥‥なあ、ホントは神泉苑で誰と会ってたわけ?」



ヒノエが聞けば、ゆきは着物の襟をぎゅっと掴む。



「え‥‥‥っ何それ?誰とも会ってないよ、ないない」

「‥‥ふぅん。お前と違う香の匂いがするけど?」

「‥香?‥‥‥‥‥あっ!‥‥」



重衡に抱き締められた時の移り香が残っているのか。

思い切り動揺してしまった。
これでは白状しているのと変わらない。

そしてその反応をしっかりと見たヒノエは、溜め息をついた。



「‥‥‥それ以上は聞かないけどね。お前にだって言えない事位あるだろうし」

「あ‥ありがとう、ヒノエ」



ゆきは心底からホッとした。

重衡に会った事に後ろめたさはない。
けど、彼の素性を追及されると隠し通せる自信がない。
特に弁慶は、どんな小さな言葉でも隠された真実を掴みそうで怖い。


先に歩きだしたヒノエが、肩越しに振り返った。



「でも妬けるね、その男にさ」



茶化すようにヒノエが言えば、赤面すると思っていたが。

ゆきは真面目な顔で、ぼそりと言った。



「‥‥‥そんなんじゃないよ」



ヒノエはもう一度口を開こうとして、思い直した。

これ以上の追及を、ゆきは全身で拒絶しているのがわかったから。








前方ではかなり遅くなった二人を他の面々が待っていた。



「ヒノエくん!ゆきちゃん!」

「二人とも遅いよ〜!」



手を振る望美と景時に、ゆきが目を丸くした。



「うわ、こんなに距離開いてたんだ!ヒノエも行くよ!」

「姫君のお望みとあらば」



無意識にゆきが差し出した手を、ヒノエは引っ張って走った。
弁慶と一瞬目が合うが、遠慮する必要はない。









ゆきが、必死に庇う『男』。


益々興味が沸いてきた。








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