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「やっぱり経正さんの琵琶って好きです」
「これは嬉しい事をおっしゃって下さいますね」
ふわりと穏やかに微笑む様は、貴公子らしく気品がある。
(本当は貴方自身が好きだと言えればいいのでしょうけど‥‥‥)
恥ずかしがり屋の遙香は、恋人の琵琶が好きだと伝えるのが、精一杯。
経正はその笑みのまま、では一奏、と琵琶を爪弾く。
艶やかで、何処か寂しげな極彩の楽。
そぅっと彼に背を向けて、音に耳を傾ける。
‥‥‥‥‥‥不意に中断される、音。
「‥‥‥遙香?どうして後ろを向くのですか?」
「それは‥‥‥」
「私はいつでも、遙香の顔を見ていたいのに」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥お、お戯れは程々にして下さいっ!」
色付く頬を隠す様に俯けば
背中に触れる熱。
‥‥‥鼻をくすぐる、薫きしめられた香。
「私はいつだって真実しか言いませんよ。どうかこちらを向いて答えて下さい」
「だ‥‥だってっ‥‥‥」
「‥‥‥だって?」
「貴方を見る事に夢中になって、琵琶の音に集中出来ないものっ!」
心臓が早鐘を打つ。
抱き締める経正の腕に力が籠った。
「それは‥‥‥困りましたね」
「で、でしょう?」
そして、経正が遙香の耳元で囁く言葉は。
「仕方ありませんね。今度は、君の楽を聞かせて頂けませんか?‥‥‥‥鈴のような、君の声を」
返事を聞かずに、火照った身体を抱き上げた。
進むは、自室。
‥‥‥二人きりの甘美な宴は、宵まで続く。
君の寝息を子守歌に
疲れ果てて眠る遙香に
・・・口接けをひとつ。
隣で眠る僥倖に、今は浸ろう。
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