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兄の堪快からその知らせをもたらされたのは、数年ぶりに熊野に訪れた時のこと。

たった一言の、短い羅列の中に様々な感情が込められていた。



「‥‥‥そう、ですか」


返事をするただの相槌が、これ程重く圧し掛かるとは思ってもみなかった。




言葉を弄する事を生業とする自分が

兄の前とはいえ、感情を抑えきれずにいるほどの。






遙香の舞が、後白河院の眼に留まったと、その一言が。








時雨

















「お久しぶりね、鬼若‥‥‥いえ、弁慶だったわね」

「ええ、今は弁慶です。ヒノエから、君を迎えにいくようにと頼まれて」

「‥‥ヒノエが貴方に?珍しい。いつの間に仲良しになったの?」

「酷いな。僕と彼はいつも仲良しでしょう?」



久々に会うというのに、この幼馴染殿は殆ど変わる事がなかったようだ。
悪戯っぽく眼を煌かせるところなど、本当に同じ。

ヒノエが彼を苦手に思っているのは公然の秘密なのに、彼もそれを知っているのに。
そう、知っての上だから本当に質が悪い。




「そうだったかしら」




遙香は、今はもう遠い遠い記憶を思い起こすかのように眼を細める。
僅かなその仕草さえ、手を伸ばせば届くだろう。










あの頃に戻れたら

君が笑う光に溢れた世界に戻れたら




きっと、僕は‥‥‥




 


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