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「遙香、いつかオレのはなよめになってくれないかい」

「いつか?」

「遙香をささえられる男になったら、むかえに行くよ」

「うん!まってる!」


やくそくだよ、

ゆびきりげんまん。











ゆびきり









「遙香、お籠りから戻ったのね」

「はい」

「大巫女様がお呼びですわ。私室に来て下さい、と仰せです」

「私室‥‥ですか?わかりました」



大巫女様が何の用かしら。
首を捻りつつ、渡殿を歩く。



ここ熊野本宮で、私は十歳の頃から巫女を務めてきた。

祈りと、単調かつ厳粛な生活の毎日に最初は何度も逃げ出したくなったけれど‥‥
慣れてしまえば、不思議と苦ではない。









渡殿を歩きながら、本宮を包む純白な神気を感じた。
それは私に、彼と、彼が花嫁に選んだと噂の、白龍の神子姫の来訪を告げている。


「もう来たの、ヒノエ」


呟きは自分でも驚く程、静かに凪いでいた。










「それは‥‥‥身に余るお役目でございます。私はまだ修行の身。お受けする訳には参りません」

「‥‥そう答えると思ったのよ、わたくしも」


御年四十を軽く超えられた大巫女様はふぅ、と溜め息をついた。


「わたくしからも一度は辞退させて頂いたの。でもねえ・・・・」



疲れたように息を吐く大巫女様の目を、挑むようにじっと見つめた。



「貴女でなければ駄目だと別当殿の仰せだから・・・」




馬鹿ヒノエ。

心中で呟いて、仕方なく頷いた。
目の前の、巫女の長を困らせても仕方ない。


「畏まりました。それが務めならお受け致します」

「ありがとう。早速で申し訳ないけれど・・・」

「はい、今から参ります」


深く一礼をし、退出しようとした私を再び呼び止めた。


「・・・・それと、貴女がお籠りしてる間に、荷物はあちらに運んでおきましたからね」

「・・・・・・・・・は?」



もう行きなさい、と手を振られた私は知らない間に退室していた。


「やられた・・・・・・」


始めから、私には断る選択肢など与えて貰えなかった。
周りをすっかり固めておいて、退路を絶つ。
万が一にも否とは言わせないやり方。


誰の指示かなんて一発で分かる。
伊達に幼馴染みだった訳じゃない。


・・・何だか無性に腹が立ってきた。



見てなさい、ヒノエ。

完璧な巫女として、白龍の神子様のお世話をしてあげるわ。

ヒノエなんか忘れた様に、振る舞ってみせる。




決心を胸に、私は熊野本宮隣の寝殿へと歩いて行った。




 



「白龍様、神子様方、八葉の方々。お初にお目にかかります。巫女長の代理としてやって参りました遙香と申します」

「春日望美です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、至らぬ所が多々あるかと存じます。御用がございましたら、何なりとお申付け下さいませ」


指を付き丁寧に一礼し、頭を上げた。
流れるような所作も、ここで修行をして身に着けたもの。




(彼女が白龍の神子・・・・・・)




紫苑の髪の美少女は、嬉しそうに微笑んだ。


「あの、どうかもっと普通に話して下さい」

「・・・・・・普通でございますか?」

「私達は同じ歳なんですから、ね?」

「ですが、私は貴女様に・・・」

「それでも、お願いします」


そのまま押し切られてしまい、「神子様」から「望美」と呼ぶようにと、懇願されてしまった。
敬語も止めて欲しい、と言われたが、これだけは固辞する。


「では、望美・・・これでいいでしょうか」

「うん。よろしくね、遙香」


笑顔が眩しくて、私は俯いた。

何から何まで綺麗な少女。

ヒノエが見初めたのも、よく分かる。
まさに彼の理想の姫君だろう。




痛む胸を沈める為に深呼吸を一回、
再び顔を上げた。



「久し振りですね、遙香さん」

「弁慶さん!・・・敦盛!お久し振りね」

「あぁ・・・・・・久し振り、遙香殿」

「長く会わない間に随分と綺麗になりましたね。驚きましたよ」

「ありがとう!弁慶さんは相変わらずですね・・・・・・敦盛も元気そうで安心したわ」

「・・・遙香殿も」

「敦盛ってば相変わらず無口なんだから」

思いがけず昔馴染みの二人にも再会した事ですっかり気分が良くなった私は、彼がずっと見ている事も気付かない位はしゃいでいた。




「遙香」


だから、
あの頃より低くなった声に一瞬胸が高鳴っても、


「お久し振り、ヒノエ」

「・・・あぁ」


笑顔で彼に挨拶出来たのは、弁慶さんと敦盛のお陰。



・・・久し振りに会うヒノエは溜め息が出る程格好良くて、悔しいけど見惚れてしまった。



「・・・・・・では、私はこれで失礼致します。何かありまし・・・・・・あったら呼んでくださいね、望美」

「ありがとう遙香」



これ以上は居られなくて、そそくさと退室した。



 


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