(5/5)





着いたのは初めて見る部屋だった。

知盛殿は、そっと私を降ろすと、また腕を引いて抱き締めてきた。彼の胸の中で聞こえる確かな鼓動に、新たな涙が浮かんでくる。

生きてる‥‥‥

ずっと焦がれていた、彼のぬくもり。








「経正が、ここを使えと‥‥」

「ここが知盛殿の部屋なのですね」


私が頷くと、クッ‥‥と笑った。


「俺と、お前の部屋だ」

「私も‥ですか?」

「やっと、手に入れたからな‥‥‥‥もう、手放す気はない」


悪戯っぽく口の端を上げる表情に、私は何も言えなくなった。






小さく頷いて、目を閉じる。






「お帰りなさい、知盛殿」

羽のように、触れる唇。

「‥‥ああ」



「ともも‥‥」

また名を呼ぼうとした唇を、瞬きの間に塞がれる。今度は触れるだけでなくて、絡めとられてゆく。

息苦しさに、私は軽く身をよじった。




「ん‥‥っ‥とも‥」





逃げ出すと思ったのか。

知盛殿は私が逃げないように、しっかりと抱き締める。


くちづけはますます深くなってゆく。言葉も、吐息すらも封じられてしまうから、私の身体は熔けそうになった。


いつの間にか、ふたりして床に倒れ込む。


「あああの、知盛殿」

「‥‥‥なんだ」


知盛殿が私の首筋に埋めていた顔を上げた。
袿も重ねられた単衣も、いつの間にか身に纏っていない。いつ脱がされたのかすらわからない。


「わ、私っ‥その‥‥まだ‥‥‥」

「‥‥‥なんだ‥‥そんな事か」


クックッと艶っぽく笑いながらまたくちづける。零れる水音が耳に、身体にまた新たな熱を与えていった。


「‥‥俺に、全て任せろ」

「‥‥んぅっ‥」









「‥‥‥‥‥‥遙香‥‥」

一夜をかけて、知盛殿は私の名をずっと呼び掛けてくれた。











季節がくるくる巡る。
眩しい日差しの夏が過ぎ、愛しい秋桜の秋が過ぎ、寄せ合う肌の温もりが恋しい冬が過ぎ、それから、全てが息吹く春が過ぎても。


移る景色ごとに永遠はやってくる。
二人の中に、ずっと。











あの日、源氏に破れた知盛は壇ノ浦の海に身を投げたらしい。
そして二月後に、将臣が身を寄せていた奥州の浜辺に、打ち上げられたのを助けられたという。
傷が癒えて、ここへ来るまでに一年かかったのだと‥‥

将臣が話したのは後日の事。

それを聞いた遙香が激怒して、知盛に一晩かけて説教したのも、また後日のおはなし。

最も、説教の半分以上は蜜な秘め事だったけど。




景色は巡る。

永い恋の歌をうたいながら。






 


BACK  
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -