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「‥‥‥経正殿?今、なんと‥‥」


おっしゃったの?と最後まで続けられなかった。

それほど彼の言葉に驚いてしまったのだ。



「ですから、祝言の用意を始める、と申したのです」


祝言?


「‥‥‥‥‥‥誰の、祝言ですか?」

「勿論、私と貴女の祝言です」

「なっ‥‥‥‥」

「それが、尼御前たっての願いなのです」

「やめて!!」




気がつけば、私は

経正殿の胸倉を掴んでいた。




「‥‥‥‥どうして!!」


どうして、貴方は


私の気持ちを知ってるのに









ちゃんと言わなくてはならないのに、言葉がでない。





「‥‥‥どうして、お断り下さらなかったの‥‥」


視線は、逸らせずに。

瞼の奥までせりあがる涙を何とか押さえて、私は聞いた。







「貴女を、愛してるから‥‥それが理由になりませんか?」






「‥‥‥‥え?」

「あの方ではなく、私が‥‥‥貴女をお守りしたいと願ったからです」

「‥‥‥‥‥‥つ、経正殿?」



経正殿は真摯な眼で私をじっと見つめていた。

まだ胸倉を掴んでいる私の手をゆっくりと引き剥がして、彼の手でそっと包みこんだ。



「本当は、ずっと言いたかった‥‥‥‥愛しています、遙香殿」


「そんな‥‥」


「どうか、考えて欲しい」




経正殿の気持ちなど、何も‥‥‥考えた事すらなかった。






泣きそうに揺れる視界の真ん中に、困ったような微笑みの経正殿の顔。











こんな時にでも、

私は貴方の中に、『彼』の面影を探してしまう。









「ごめんなさい」


貴方に親愛以上のものをあげられない。



「私は、知盛殿でないと幸せにはなれません」

「‥‥生きているか、解らなくても?」

「信じています」

「生きていても、こちらに来られるかわからないのですよ?」

「待ちます」


もう一度目の前の、優しい人の顔を見た。


「どうしようもなく、知盛殿を愛しているから」


経正殿の手から私のそれをそっと引き抜いた。
そのまま一礼して、彼の部屋を後にした。











「どうしようもなく愛している‥‥‥‥ですか」



経正は小さく笑った。

文机には、昨日届いた一通の書簡。



「それでも、祝言の用意はさせて頂きます、遙香殿」








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