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「暑いね〜〜‥‥‥」
「暑いな‥‥」
「クーラー欲しい‥‥」
「贅沢言わねえ。扇風機でもいいぜ‥‥」
「アイス食べたい」
「アイス最高!俺も食いてえ‥」
縁側でだらんと伸びてる遙香と将臣。
「なんか涼しくなる方法ないの?将臣くん‥‥」
「あ?俺に聞くな‥‥考えられねえ‥‥」
だらだらと話している二人の元へと足音が近付いた。
目をやると、常に涼しそうで、暑さを感じてるのか不明な人物が立っていた。
「涼しくなる方法でしょうか?それでしたら私にお任せ下さい、遙香」
「マジでか!?サンキュー!!」
「ありがとう!重衡さん!!」
勢いよく起き上がった二人。
男は少女の乱れた髪を直してやる。何処か嬉しそうにしながら。
「可愛い遙香の憂いを晴らせるのでしたら、喜んで」
「し、重衡さん‥‥」
熱くなった頬を見られるのが恥ずかしくて掌で隠せば、その上からひんやり冷たい手が重ねられる。
そんな事されたら益々顔が上げられない。
(毎日こんな調子で、付き合ってねえと言うから驚くよな)
‥‥原因は超鈍感娘にあるだろう、間違いないと思う。
「なあ‥‥俺はどうでもいいのかよ」
目の前で二人がイチャつくので、拗ねて床に座りいじいじしてみたが、視線を向けてさえくれない。
(アホくさ。部屋帰ろ)
一人歩く背中に、漂う哀愁。
(俺もそろそろ彼女欲しい‥‥)
切実な願いだった。
怖がりな愛し君
「‥‥‥それで、怪談話なの?‥‥」
「夏と言えばこれでございましょう?」
先程、自室まで迎えに来てくれた重衡は事も無げに言った。
一方、入り口で立ち止まり柱に掴まっている遙香が、泣きそうな声で訴えている。
「私、怪談とか本当に駄目な人間だから」
「ええ、もちろん存じ上げておりますよ」
「‥‥‥へ?」
今、なんと言っただろうか。さらっと凄い発言を聞いた気がする。私の怖がりな性格を知っていて、この場を用意したのか?
びっくりして気が抜けた一瞬を重衡が見逃す訳もなく、しがみついた柱から、いとも簡単に遙香の身体を剥がした。
「心配なさらないで。私が付いておりますから」
「嫌ぁーーー!!」
大広間には平家の主だった武将が集まっている。
それぞれ一本ずつ蝋燭を持たされ席に着いた。
「遙香、こちらへ座りませんか」
「あ‥‥はい」
目の前の少女を、ちゃっかり自分の隣に呼び寄せる辺りが重衡らしい。
「では父上、ご挨拶をお願い致します」
「うむ」
重衡に促されて、清盛が立ち上がった。
「では、『第一回びっくりどっきり胸キュン!君の隣で恋の予感!!僕の隣はれえすくいぃん?怪談大会』を始めるとしようぞ!」
「うお−−−っ!!」
会場は割れんばかりの声援と拍手が巻き起こる。
清盛の挨拶の意味が解らない人の方が多い筈だが、誰も気にしない。
「まさかとは思うけど、清盛様に台詞を教えたのって‥‥」
「重盛兄上ですよ、遙香」
「ははは‥‥‥やっぱり将臣くんね‥‥」
(清盛様にあんな事言わせやがって‥‥!!)
後でシメておこう、と誓った。
「うん?‥‥‥まだ続きが書いてあるぞ。‥‥『遙香、隣の狼に気をつけろよ☆』
‥‥だそうだぞ、遙香」
絶対、わざと、時間を空けて追加の文を読んだのだろう、清盛。
「は??」
「将臣殿も可愛らしい事をおっしゃりますね」
首を傾げる遙香の横で、艶然と重衡が微笑んだ。
「重衡さん、意味わかりますか?」
「いいえ。でも、狼が来ようと私が貴女をお守りしましょう。大丈夫ですよ、遙香」
「‥‥は、はい‥‥」
またもや顔が真っ赤になった。
遙香のもう一方の隣に座る敦盛も釣られて真っ赤になった。
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