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「ヒノエの手って実は大きいのね」

「風花の手が小さいんだよ」

「‥‥そう?」


熊野の夏は涼しいのだと言う。

だけど今日は茹るような暑さで、望美がダウンしたから、
熊野川の怨霊調査はお休みとなった。


皆はそれぞれ用事で出かけて、譲は望美の看病と言う名の役得に付いてたりして、割と忙しそうなんだけど。



私は部屋から一歩も出ない。
と、言うより出られない。

私の背後にヒノエが座ってて、しっかり腰に手が回っているから。


「男の人の手よね。大きいけど綺麗。こういうの、好きよ」


私は、後ろに座るヒノエの手を、両手で包むように握った。

そのまま自分の掌と重ね合わせる。
しなやかな指は長くて、私の指を握るほど。

頬に寄せて、ひんやりしたヒノエの掌に目を閉じた。

気持ちよくって、安心する。


「‥‥‥姫君が好きなのは、手だけかい?」


後ろから、耳元に息を吹き掛けるように囁くから、私は身体がかぁっとなった。

「‥‥‥‥それ、反則‥」

「‥オレは普通に喋ってるだけだぜ?」


わざと素っ気無い物言いにも、微かに笑う気配が混じっている。
私で遊んでるってムッとするけど、言えば益々笑われそうだから、黙っておく。

知らん顔して、握った手を開いて閉じてって繰り返しながら、ヒノエの指を見つめた。





この指も、艶のある声も、

全てが愛しいと感じながら。



「‥‥‥全部、好き‥‥」


聞こえない様に呟いたつもりだったのに、しっかり聞かれたみたいで、腰の腕に力が籠った。


 

全部、好き

あなたの指も、声も

その身体の全て

その存在の全てが、愛しい。





ヒノエが小さく笑って、そっと、私の手を持ち上げる。

「風花の手は白くて綺麗だね」

「‥‥耳‥元で、話さないで‥‥」

「知ってる?‥‥‥お前の肌って、オレに感じて綺麗な朱に染まるんだぜ」


囁きと共に、絡めた私の指先に唇を落とす。

軽く触れただけなのに、刻印のように熱が広がる。


「‥っ、もうっ‥‥ヒノエ‥っ」


指先に何度もキスしながら、私の目を見てニヤッと笑う。
その笑顔に、心臓が跳ねた。


「‥‥ほら綺麗な色だね、風花」


ヒノエの唇ひとつでこんなに変わるのが恥ずかしい。
身体中が真っ赤になっている。

慌ててヒノエの手に絡めた手を引っ込めようとしたけど。


「‥‥離さない」

「ヒノエ?」

「今日はオレだけを見てろよ」


絡めた指に力を込めて、顔を寄せてくるヒノエ。
彼の眼に、私は捕らわれる。

指にキスされただけで、こんなに頬が赤くなっているのに、

こんな至近距離だとどうすればいいの。


「ね、ヒノエ」

「オレの姫君は、全てが綺麗だね。肌も、髪も‥‥‥眼も、全部」

「もうっ‥‥‥んっ‥‥」

掠めるようにキスされる。


染まる頬も
熱を帯びたこの身体も

あなたを映すと幸せになる眼も、

切ない心も。


全部、あなただけを求めてる。




微かに微笑んで、ヒノエは私の頬に手を添える。
絡めた指先ごと、頬を撫でた。


「こんなにオレを溺れさせて、どうするんだい?」

「‥‥‥それ、私の台詞なのに」

「風花‥‥」


名前を呼びながら、微かに撫でるように唇で触れてくる。


「離さないよ、風花」

「‥‥‥離れない」


静かに囁きあった言葉は、ついばむようなキスの合間に溶けてゆく。



離れない

離れたくない


今だけは





キスは段々深いものになってきて、身体に灯る熱に焼けそうになる。

このまま、二人で溶けあってしまえたらいいのに。





‥‥‥ごめんね。




「ヒ、ノエっ‥‥」

「‥‥風花」


この指先に翻弄されていく自分を感じながら、

ヒノエの温もりを身体に焼き付けた。







ごめんね、ヒノエ。

もう時間があまりないの。



憎んでくれていい
忘れてくれたっていい




だけど、今だけは



あなたに溺れる私を許して。




「愛してるよ、風花」

「‥‥う、んんっ‥‥‥」






『愛してる』




言葉にしてはいけない想いを、嬌声に紛れさせて、私はヒノエの指先に溺れた。




ずっと、愛してる

って、何度も思いながら‥‥







 


   
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