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私達は歩いていく
平和を目指して

和議を成功させるため、

心をひとつに










『熊野別当‥‥‥それにしても、そなたが動くとはな』

『船は帆に風を孕めば動くもの。熊野はいつでもそうですよ』

ヒノエと話し終えた後白河院は、和議を結ぶ院宣を下した。










『皆、平家がちょっかい出しても絶対に手を出しちゃだめだよ』

『どうか兄上を‥‥‥私達を信じて』


景時さんと朔は、福原で源氏の兵を押さえている。










『くだらん』

『兄上!』

『平家が動けば院宣は変わりましょう。賊と言う名をお受けになりますか』

『源氏が‥‥‥皆が幸せに暮らす道を作れるのは、兄上‥‥‥あなたのご決断なんです!』


九郎さんと弁慶さんに説得され、鎌倉殿(頼朝)は真実の和議を結ぶ事を承諾した。












そして、


『本当の和議を結んで貰います。もう平家との戦はやめて、争いを終わらせて貰います』

『まあ‥‥‥』


それぞれが動くと同時、

望美は福原に鎌倉殿名代としてやってきた北条政子‥‥‥望美曰く大ボスと、対峙していた。



『みんな戦ってくれています。私は諦めない。あなたをここで止めて見せる』

『ふふっ。あなたを消してしまえば、この先はどうなるのかしら』


禍々しい気を発した北条政子。

『先輩から離れていただきましょうか。北条政子さん』

『神子は、我らが』



望美を守る為に立ちはだかるのは‥‥‥弓を番えた譲と、シャムシールを構えたリズ先生。

形勢をどう取ったのか。
逃げようとする彼女を、白龍がその神気で押さえた。

『逃がしはしない‥‥‥それが神子の、願いだから』

鎌倉から書状が届くのは時間の問題だった。












将臣と敦盛殿と共に清盛様を説得している間に、時勢は動いていた。






祈りのような望美の願いを、皆が受けて。


みんなの願いを、望美が受けて。



 








 



「‥‥‥っつ!!」


背後から気配を感じて飛び退く。



銀色の軌跡が、たった今いた場所に曲線を描いた。


‥‥‥間一髪。


ただ、鋭く重い刃風は避け切れず、頬を掠めた。

じんわり熱を感じて、浅く切ったのだと知る。
拭う指先に僅かな血液。





‥‥‥不意をつかれて、心臓が激しく動悸する。

私は目の前に立つ知盛殿を、睨み付けた。


「‥‥‥びっくりしたじゃない」


「言っただろう‥‥‥?次に会う時は‥斬る、と」


「そんな直接的な言い方してないでしょう?大体、私は敵じゃないのに」


「クッ‥‥‥戦を辞めさせるなど、つまらん事をするなら‥‥‥敵も同然ではないのか?」



刀を納めた知盛殿は、どうでもいいという様に肩を竦めた。

戦が終わるという事は、彼の生き甲斐を奪うということになる。

それでも、彼が生きていられる事を私は嬉しく思った。







望美は、時空を何度も行き来する中で
知盛殿とも数知れず戦って来たのだと言う。

‥‥‥彼だけでなく、清盛様とも戦ったのだと。





その戦いの末に辿った結末を、望美は決して言わなかったけれど。




私が聞いてしまえば辛い思いをすると、気遣ってくれたのだろう。



何度も平家を滅ぼしたのだと‥‥‥どうしても言えなかったのかも知れない。











和議が成功すれば、平家は滅びない。











そうすれば私が泣かなくて済む、と


少しでも望美が考えてくれたと思うのは‥‥自惚れだろうか。






















真実の和議は、神泉苑で執り行われる事になった。


後白河院の院宣のもと

平家からは清盛様、

源氏からは頼朝

戦の締結を誓う儀式が行われる。













 


平家一門は和議の前日、京入りした。




「‥‥‥数年振りの京だ」


懐かしそうに清盛様は眼を細めた。


「そなた達はこの京に安住出来よう」


幼い安徳帝の頭を撫でている。


「おじいさまは京に詳しい?私はよく知らないから教えて欲しいのだ」

「そうか、そなたはほんの小さい時に都を離れたからな。重盛や知盛、重衡にでも案内して貰えばいい」

「はい!おじいさま!」


この言葉に時子様が憂い顔を浮かべた事は知る由もなかったけれど。






「‥‥‥風花」

「はい」



そろそろヒノエの所に戻ろうかな、と思った時
清盛様に呼び止められた。

「風花、まだここに居て良いのか?そなたを待っている者が居よう?」

「え‥‥‥」


びっくりして、まじまじと清盛様を見た私。
そんな私を見て、清盛様はからからと笑った。


「我が娘の事を、何も知らぬと思うておったのか?少し見ぬ間に美しくなったそなたに、気付かぬとでも?」


「養父上‥‥‥」


「そなたは平家の一員。この清盛が娘。
‥‥‥例えどんなに離れていようとな」


頭を撫でてくれた優しい手。
涙が出てしまった。



「はい‥‥‥ちち‥‥‥お父様。私も、貴方の娘で良かった‥‥‥」



初めてこの世界で優しくしてくれた人。

見ず知らずの他人に、手を差し延べてくれた人。


清盛様がとっくに死んでいて、怨霊である事なんて
私にはどうでも良かった。


私に触れる手は、いつも優しい人だったから‥‥‥。







貴方の知らない世界で、一度は貴方を欺こうとした私。

罪悪感は消えないけれど‥‥‥

貴方の娘になれた事、今なら誇りを持っている。




「心配するでないぞ。そなたを含め、平家が末永くこの京に住まう為に、憂いを取り除いてやろう」


「‥‥‥はい」




涙が止まらない私は、深く考えずに頷いてしまった。



‥‥‥憂いを取り除くとはどういうことか。

この時、ちゃんと言葉の意味を考えれば‥‥‥止められたのだろうか。




何の縁もない私を
我が娘だと言ってくれた‥‥‥家族思いの、暖かい人を。



















私は退席の挨拶をして、その場を辞さんとした。


「‥‥‥風花。我にもしもがあった時は、時子と帝を頼む」


風に乗って、清盛様の呟きが聞こえた気がした。






 






 


「おはよう、ヒノエ」


「おはよう。いよいよだね、風花」



昨夜戻った私は、一晩中ヒノエと過ごした。


会えなかった時間を埋めるのに、一晩なんて足りないけど。

胸に頬を寄せると感じる鼓動に、愛しさが溢れる。




今の私達に余計な会話は要らない。
ただ一言だけ、

「迎えに行くから待ってろよ」

「‥‥‥うん。待ってる」

和議が終わったら、ヒノエは私を迎える為に、平家に来ると約束してくれた。

熊野別当と平清盛の養女としてではなく、ただのヒノエと風花として。



その時、清盛様とヒノエはどんな会話をするのか、楽しみに思った。

























「まさか将臣が還内府で、風花が清盛の娘だったとはな。想像もしてなかったぞ」


「それはこっちのセリフだぜ、九郎。源氏の御曹司がフラフラ出歩いているなんて誰が思うかよ。
‥‥‥そういえば、風花は最初から知ってたらしいぜ?」


「何っ?一体どこで‥‥‥」


「今だからバラしちゃうけど、望美が口を滑らせたのよね?」


「あっ!風花ひどい!!」


「はははっ!望美らしいね!」


「ヒノエくんまで!!」



九郎さんが呆れた顔をして望美を見た。
和やかに笑う私達。



途端に薄れる緊張感。




皆を見つめる望美の眼が、
愛しいものを見るように優しく細められた。


彼女は、どんな思いで今日の和議の為に戦って来たのか。

たった一人で、幾度も時空を超えて。

それがどれほど辛い事なのか、私にもほんの少しだけ分かる。

‥‥‥何度も泣いて、
何度も足掻いたのよね。


そんな望美だからこそ、皆はその願いを叶えようと思うの、きっと。






「みんな、行こう‥‥‥和議を見届けに!」


白龍の神子としての強い言葉。

決意を込めて頷く彼らに、望美は晴れやかに笑った。









「風花!手を繋ごうよ」


「残念だね望美。風花の手はオレの手に包まれる為にあるんだぜ?」


「何言ってるのヒノエくん?手は二つあるんだよ!」


「それも残念。風花の全てがオレのモノだからね。
望美は譲の手でも握ってやりな」


「い・や!風花がいいの!」


「‥‥‥」



お願い、譲。
こんな時まで私を睨むのは、やめてよね。



「すげぇなお前。モテモテじゃねぇか」


「‥‥‥笑ってないでどうにかしてよ、将臣」



こんな風に笑える日が、もうそこまで来ていると信じた。

平家も源氏も関係なく、ただの人として向き合える日が来る事を。
垣根を超えて手を取り合える日が、もうすぐそこに。




















「では連署した書の通り、今後その方ら一門は恨みを水に流し―――
互いに一門の武力を使う事がないように」


「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」



清盛様と頼朝は、沈黙を保つ。

張り詰めた空気に、しん、と静まり返る場内。

‥‥‥神泉苑に集まった大勢の人々は、誰一人として言葉を発しない。


やがて、先に口を開いたのは清盛様だった。




「よかろう、源頼朝。我は約定を守る」


「こちらも異存はない」





頼朝も頷いた。


おおーーっ!!!と、場内が沸き返る。





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