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「‥‥‥風花。もう起きな」
「んん‥‥‥‥‥‥ヒノエ?‥‥‥」
眼を開けると、悪戯っぽい笑みを浮かべた彼。
「残念。もう少し寝ていたらあんな事やこんな事を」
「あんな事?‥‥‥‥えっ?ちょっとヒノエ!?服っ!!」
「何を今更。風花も同じじゃん」
ヒノエの剥き出しの胸に赤面すれば、彼に胸元を突つかれた。
改めて見ると、私も同じで‥‥‥
布団で慌てて胸を隠した。
全身が気怠い。
それが昨夜のヒノエを思い出させて、妙に照れてしまう。
ヒノエはクスクス笑いながら軽いキスをして、着替え始めた。
「ヒノエ、これ‥‥‥」
「昨日の着物、汚れて着れないだろ?用意しておいたよ」
言ってヒノエは部屋を出る。
私が着替えを見られるのを嫌う事を知っているのか。
そっと部屋を出る、さり気ない気遣いが嬉しい。
部屋に用意されていたのは、いかにも高価そうな華やかな着物。
いつの間に用意させたのだろう。
彼の手回しの良さに感心した。
着替えて髪を整えた頃、ヒノエは戻って来た。
姿見の前に座る私の背後から抱き締めてきて、耳を舐めてくる。
「やっぱり風花はよく似合うね。流石はオレの姫君だよ」
「本当?ありがと」
鏡越しにヒノエは笑って来て、首筋に唇を埋めた。
ピリッとする感覚。
「‥‥んっ‥‥」
再び付けられた印を、
嬉しいと思った。
唇を離しても、顎を私の肩に乗せたまま。
鏡の中の私に誘いかけるように、笑う。
だけど眼は鮮やかに澄んでいるから、とても可愛く見えた。
‥‥‥可愛い、なんて言ったら何をされるか分からないけど。
「でも、他の野郎に見せるのは気に入らないね。このまま閉じ込めようか、お前を」
「‥‥‥」
鏡越しに睨むと彼は笑いながら離れた。
そして枕元の刀を手に取って差し出す。
「どうする?持っていくのかい?」
知盛殿から貰った刀
それは、今の私には、不要なのかも知れない。
‥‥‥刀を持っていけば、その理由を弁慶さん達に説明しなければならないだろう。
武器を使えない筈の私が、何故、刀を持っているのか。
そして私が平家の人間で、その素性を隠し続けて源氏にいた事を。
ヒノエの言いたい事はよくわかった。
「持っていくわ。もう隠し事はしたくないの」
私が平家の人間だと言った所で、何も変わらないかもしれない。
源氏の彼らにどんな眼で見られるか、何を言われるか。
始めから、彼らが源氏だと知って近付いた。
始めは、彼らを敵だって思っていた。
それは事実だから、仕方ない。
それでも
失ってしまったあの時の痛みに比べれば‥‥‥
私は刀を受け取り、帯に鞘を差した。
「難しい顔しているね。そんなお前も可愛いけどさ」
ぎゅっと抱き締められて、眉間にキスしてきた。
途端に緩む心。
ヒノエの首に腕を回して、今度は私から唇を重ねる。
「大丈夫だよ風花。オレがついてるからね」
「‥‥‥うん」
あなたがいれば、何も怖くない。
「そろそろ行こうか?姫君」
「ええ」
望美が待っているものね。
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