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「‥‥‥‥‥‥」




目を開ければ天井らしきものが視界に広がる。

暫しの間ぼんやり見ていた。

段々と意識がはっきりしてきた私は首を動かして、どこにいるのかを確認する。


どうやらここは宿の一室のよう

私は布団に寝かされていた。

室内には誰もいない。







‥‥‥‥‥‥‥確か、私は刀で打ち合っていたはずだから‥‥‥




「知盛殿‥‥?」



どうやら彼がここまで運んでくれたらしい。


そういえば、彼はどこに行ったのか。

と、そこで気付いた私はふっと笑う。


知盛殿はいつも神出鬼没。
今に始まった事じゃない。


「知盛殿、か‥‥‥」


‥‥‥懐かしい名前。

忘れていたのはさほど長い間でなかったのに、口に乗せる名前は久しく感じる。




「‥‥‥清盛様‥‥‥‥平家‥‥‥」


込み上げる熱い塊が、溢れそうになった。







そう。
思い出した、全てを。





私は、ヒノエや望美達に何も言わずに平家に行き




そして
平家から彼等を逃す為に‥‥‥








『オレの事なら心配いらないから‥‥‥お前は早く逃げな』



彼は、炎の海に呑まれたまま、行方すら分からなくて。







『い‥‥‥いやぁぁぁぁぁあ!!!』



あの時、白龍は『逆鱗』を手放した途端に消えてしまった。



逆鱗を受け止めた望美の身体が白く光り、
同時に手を掴まれたのを覚えている。








‥‥‥気が付くと私は学校の渡り廊下にいて、


震える身体と、止まらない涙。


もう二度と会えないのだと


失ったものの大きさに、狂いそうだった。





『だから嫌だって言ったのに!!』


叫ばずにはいられなかった。









『風花!どうしたの!?何かあったの!?』

あの時、一緒に戻って来た筈の望美は、

何も覚えていなくて‥‥‥



あの時の感情は、『絶望』

もうダメだと、
会えないのだと、真っ白になったのを覚えている。










その直後‥‥‥また、白龍に出会った。





『あなたが私の‥‥‥‥神子』






そして再び辿り着いたのは、熊野。



きっと二度目の激流に、私の記憶は流されたのだろう。














この世界では、まだ起こっていない。


福原の進撃も、その後に起こる事も、


まだ起きてはいない。









今度こそ、間違えたりしない。










きっと、同じ過ちを繰り返さない為に私はここにいる。




「私に何が出来るか‥‥‥考えなければダメね」


何が出来るか分からない。
冷静に考えれば、
私には何の力も権限もない。


なのに救うだなんて、恐れ多い事かもしれない。




それでも、私は‥‥‥


ともすれば零れそうな涙をぐっと堪えた。

着物の襟を整えながら、前を見据える。







やれる事を探さなければ。








―――けれど、その前に


逢いたい。




 










 




「‥‥‥起きたか」


「ええ、知盛殿」



あれからさほど待つ事もなく、知盛殿は帰ってきた。


寝具を片付け居住まいを正している私を見て、フッと笑う。




「その顔は、思い出したようだな」


「‥‥‥お陰様で。お世話になりました」


「俺が散々啼かせた事もか‥‥」


「紛らわしい言い方しないで。稽古の事でしょう」


「クッ‥‥‥どうやら本当に思い出したようだな」






日はまだ高い。

知盛殿の前で倒れてから、まだそんなに時間は経ってないようだ。



もう一度お礼を言い、軽く頭を下げてから、立ち上がろうとした。
けれど、




「‥‥‥知盛殿、手を離してくれないかしら?」


「何処へいく?」






知ってるくせに。








『・・・ヒノエ、とか言ったか。お前の男だろう?』

『熊野に行ったのは、有川だけじゃない・・・・・・と、言う事だ』









「彼の所へ帰るの。あなたもどうせ知ってるんでしょう?」




私の確認に、彼は眉を上げた。





空いた方の手の指は、私の首を差す。





「この男の元へ、か?」



「何の事か‥‥‥‥‥‥‥あ」






昨日の朝、ヒノエが付けた印。


知盛殿の指は、ちょうどその辺りを指していた。









「そうよ。初めて好きになった人なの」



「‥‥‥‥クッ‥‥愛だの恋だの、お前もただの面倒な女に成り下がったか‥‥」




何が楽しいのやら。

クックッと笑いながら、知盛殿は側にあった包みを投げてきた。




「持って行け」


「え‥‥‥」





布包みを開ければ、一振りの刀。




「‥‥‥知盛殿?」


「次に会う時は、お前を斬る。

‥‥‥お前の戻る場所とは、そういう事だろう‥?」


「流石と言うか‥‥‥そこまで知っているのね」



私は苦笑して、刀を受け取った。
彼は、私が源氏に身を寄せていると知っている。



「でも、そうならないわ」





精一杯の決意。


知盛殿は小さく笑った。







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