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『そなたが無事で何よりだった・・・・・・よくぞここまで辿り着いたな、風花』


半年振りに会う清盛様は相変わらず優しかった。

頭を撫でてくれる清盛様の手は暖かくて、惜しみない愛情を感じる。
私は清盛様の膝に泣き付いた。

私の帰るべき家は、平家。







『風花!帰ってくるなら文ぐらい寄越せ!迎えをやったのに・・・源氏に出くわしてたらどうするんだ!』


文を差し出せる訳ないじゃない、源氏にいたんだから。見つかったらどうするの。

・・・・・・もっとも、望美達が源氏だと知らない将臣の言い分は当然だけど。


でも、私からは何も言えなかった。


『・・・なぁ、本当にこれでいいのか?風花』

『いいの』

『だが、あいつは 『私はもう、決めたの』


真っ直ぐに将臣の眼を見た。


『そっか。お前も何だかんだ言って不器用な奴だな』

『将臣もね』

『・・・バレてたか。隠し通せたと思ったのによ』

『まさか。それにきっと譲も気付いてるわ』



・・・・・・望美を好きだと。



長年の恋を棄ててまで選んだ、還内府として生きる道。

・・・将臣は私達に自分を重ねていたのかも知れない。

もし、還内府の立場がなければ・・・・・・可能だった幸せの代わりに

私の幸せを望んでくれた。
ただの娘として、ヒノエの側で生きる幸せを。



本当に、不器用な人なんだから。







将臣も望美も、互いが敵同士だと気付いてない。


そんな過酷な現実を、
知らずに済んでほしい。











私がやるべき事はただひとつ。













雪見御所に着いた数日後。

奥にいた私の元にも、勝鬨を上げる兵達の声は聞こえてきた。


『源氏が撤退・・・・・・』

『あぁ。義経が一の谷を奇襲する事は歴史で知ってるからな。兵を潜ませておいた。

・・・・・風花どうした?顔色が悪いぞ』

『少し疲れただけ』


と言い、心配そうな将臣に小さく笑い掛け、自室へと退がった。









『源氏が、撤退・・・・・・』


大丈夫

きっと大丈夫





 



 




『・・・・・・しかしだな、風花・・・』

『・・・父上。風花の腕は、この俺が保証しましょう・・・・・・』

『それに女の私なら、誰も警戒しません』

『だが、そなたに何かあれば・・・』

と、最後まで渋っていた清盛様を、知盛殿と説得した。

清盛様と惟盛殿、それから知盛殿と私は、兵を引き連れ京へと出立する。



将臣の預かり知れぬ所で・・・




秋も深まり、冬支度を始めようかと言う頃だった。





















『知盛殿、どうしたの?』

『・・・・・・いや。お前に出来るのかと思って、な。あの男、福原では源氏の軍にいたが』

『あの男?』

『・・・ヒノエ、とか言ったか。お前の男だろう?』

『・・・・・・っ!!』


余りの衝撃に言葉を失った。

何故、ヒノエの存在を知ってるのか。
無表情でいるのが精一杯だった。


『熊野に行ったのは、有川だけじゃない・・・・・・と、言う事だ』


・・・なるほど。
きっと、ヒノエと二人でいた所を見られていたのだろう。


『・・・・・・・・・大丈夫よ、迷いは棄てて来たわ』






そう。
もう迷いなど、ない。






真っ直ぐ知盛殿の眼を見た。
クッと笑って、顔が近付いてくる。


『お前が少しでも不振な動きを見せれば・・・・・・斬り棄てるだけだがな』


触れる唇同士を離せば、浮かぶ愉悦の笑み。


『・・・こういうの、やめて欲しいんだけど』

『風花殿のお気に召さないか?』

『お気に召すも召さないも、あなたの女じゃないでしょ』

『・・・ならば、今からなればいい』


こんな時に何を言ってるんだか。思いっ切り呆れてしまう。
言葉の代わりに溜め息を吐いて、踵を返した。





『クッ・・・・・・つれない女・・・』







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