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「風花」



ヒノエくんや将臣、
弁慶さん達とは違う、低い低い声。




「‥‥はい?」





振り返れば、陽光に反射する様な銀が

風に揺れていた。




「‥‥こんな所で、何をしている。風花」



『風花』

名を呼ばれると、胸を吹き抜ける一陣の風。






「あの、あなたは‥‥‥‥?」





首を傾げると、男は驚いたのか目を見張った。






「お前‥‥?」


「‥‥もしかして私の知り合いだった方ですか?」


「‥‥‥何?」


「ごめんなさい、何も覚えてないんです」






申し訳ない気持ちで一杯になる。






男は腕を組みながら、菫色の眼を細めた。






泰然と‥‥‥気怠そうに立ちながら、決して気品を損なう事ない、妙な男。






怠慢な雰囲気なのに
射抜くような鋭い眼光だけが

私の『何か』を惹きつける。




何かが頭の中で警鐘を鳴らしていた。

この男は危険だと。




そして、


もうひとつの何かが私に呼び掛ける。



この人なら大丈夫だ、と‥‥‥




ヒノエくんが、無事に望美を助けてくれる事を祈りながら、

銀髪の男から、眼を離せないでいた。



 












 



ヒノエはすぐに小舟を出した。
滑る様に海面を進み、
望美を誘拐した舟にすぐに追い付いた。
こっそり乗り込み、救出すべく隙を伺う。



「‥‥‥綺麗な格好してるからってお姫様とは限らないんだから!」



啖呵を切る望美にフッと笑う。





強気な望美に、風花の姿が重なって見えたから。


今の風花ではなく、
出会った頃の『風花』


強い眼、激しい情熱、
時折浮かべる優しい表情。

ヒノエが心の底から惹かれた、愛しい女。






勿論、今の風花も愛しく思う。




記憶を無くした風花は

優しい眼に、戸惑いと温もりを宿していた。





全く違う『風花』


望美に言わせれば
元の世界にいた頃の風花は、優しくて大人しい少女だったらしい。

それが、記憶を失った今の『風花』なのだとしたら‥‥‥





ならば、ヒノエが最初に出会った『風花』は、

異世界からこの京に来てから、強い意志を手に入れたのだろうか。



一体何処で、一体何があったのか。
風花が京に来てから、望美と出会うまで半年。


‥‥‥その間に何があったのか。

















そろそろ頃合か。

ヒノエはヒラリと飛び出すと、望美の肩を抱き込んだ。



「ヒノエくん!」


「‥‥‥オレの名を知らないなんてね。

‥‥‥オレは熊野別当、藤原湛増」



名を聞けば、ざわめく奴等。鼻で笑う。

丁度、熊野水軍の応援が来た。
海賊共を配下に任せ、望美を連れて、浜へ舟を進める。




遠目だが、砂浜には数人が立っている。

黒い外套や、金髪、
橙色の長髪、一目で分かる派手な一行。



「皆、迎えに来てくれたんだ‥‥‥」



隣で嬉しそうに呟く望美の声は、ヒノエの耳に届かない。






「ヒノエくん、どうしたの?」




眼が、彼女を捕えられない。




胸‥‥‥胸の空洞を埋められない。







「‥‥‥‥‥‥望美。風花がいない」


「えっ!?嘘っ!!」









迂闊だった。



あの時、風花に言い忘れていた。











宿に戻るようにと‥‥‥。






「風花っ!!」








何故、嫌な予感ほど

現実に起こり得るものなんだろうか。






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