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「めぐれ、天の声

 響け、地の声

 ―――かのものを封印せよ!」





ガラスが砕ける様な音がして、望美から生まれた光は怨霊ごと消えていった。








『いつ見ても』綺麗だな、と思うという事は

忘れているだけで、本当は何度も見ているのだろう。







いつの間に、望美は強くなったのだろう。


京へ来て、半年程しか経ってないはずなのに。

リズ先生に剣を習ったとは聞いたが、ここまで上達するものだろうか・・・







「・・・・・・・風花?」

「・・・・・あっ、ごめんなさい。ヒノエくんどうしたの?」


「風花こそどうしたんだい?深刻な顔も可愛いけどね」



茶化す口調なのに、眼は笑ってない。



どんな小さな嘘も誤魔化せない、そんな鋭い目付き。




「・・・・・・望美って強いのね」









あんな強さが私にもあれば・・・・・・









「ああ。望美はオレ達八葉や、大切な人達を守りたいんだってさ」



ヒノエくんは目を細めて、剣をしまいながら将臣と話をしている望美を見た。







あぁ、そうか。

望美が強いのは、剣だけじゃない。






白龍の神子として、一人の人間として



命の重さを知っているから、なのよね。











「風花!!ついでにヒノエくん!!」





こちらを振り返り、満面の笑顔で走ってくる望美。





「ついでにって、酷いな望美」


「風花を独り占めしてたんだから、ついでにで充分なんだよヒノエくん」





ぎゅぅっと、男のような怪力でしがみつく望美を抱き返す。



「風花、ヒノエくんに何もされてない?」


「望美、最近オレの扱い酷くないかい?」


「恋敵には優しくなれないもん!」





私に抱き付いたまま、舌を出す望美と、深い溜め息を吐くヒノエくんを見てると笑いが込み上げた。



「もう、望美ってば面白いんだから」


「・・・・・・ね、風花、どうだった?」


「凄くカッコいいなって思ったの。望美って強いのね」






この一言で、望美が不意に真剣な顔をした。

私の眼を真っ直ぐに見る。





「私は、私の大切な人を守りたいから。

誰にも、邪魔させない。



―――風花の事も、きっと守ってみせるからね」






その眼は、さっきのヒノエくんとよく似ていた。







 


 




「ねぇ、望美の剣って重いの?」





さっきの眼が怖く感じて、話を逸らそうと視線を巡らせれば、腰に下げた剣が眼に付いた。





「持ってみる?」


「うん」






鞘ごと渡された剣を、両手で持った。



思うよりも手に馴染む気がする。



「これを軽々と振るってたのね、望美・・・・・・」


「風花!」

「大丈夫」




ヒノエくんの制止の声に一言返して、柄と鞘を握る。


ゆっくりと引き抜くと、銀色の刀身が姿を表した。

















陽光を跳ね返して光る、

強くしなやかな刃。




















「風花!やめろ!!」



怒声と共に、手にしていた剣がパッと取り上げられた。





「将臣くん!?」


「望美!武器もろくに扱えねぇ風花にこんなもん持たせんな!」


「・・・う、うん。ごめんね将臣くん・・・・・・」





剣を返した将臣が、私に向かって歩いてくるのをぼんやり見てた。




「風花」


「・・・・・・・・・・・・・・・将臣・・・?」





「刀なんて持たなくていい、風花」




私の肩を掴む将臣の指先が、小刻みに震えていた。

真摯な、眼。




「まさおみ?」


「・・・・・・お前は・・・ 「オレが守るから」




将臣の手が肩から引きはがされたかと思えば、
強い力で引き寄せられた。




「風花はオレが守るから、心配いらないぜ?将臣」






耳元で這う様な低い声がして、やっとヒノエくんに抱き締められているのだと気がついた。




「ヒ、ヒノエくん!?」




慌てて身を捩ろうとするも、腕の力は強くて振りほどけない。






「・・・・・・そうだな。
・・・・・・なら風花に武器なんか持たせるんじゃねぇ、ヒノエ」


「へぇ。風花の事を、将臣がそこまで気にするなんてね」


「当たり前だろ。コイツとは友達だから 「それだけ?」


「・・・・・・んだよ。男の嫉妬か?」





二人の声に、張り詰めたモノを感じる。

顔を上げたいのに、彼の胸にしっかりと押さえ付けられていて全く見えない。




二人以外の声は聞こえないから、きっと皆が注目してるのだろう。
 


「嫉妬?そうやって誤魔化すなよ」


「僕も是非教えて欲しいですね、将臣くん。さっき望美さんの剣を『刀』と言った理由を」

「偶然じゃねぇか?」

「偶然にと位置づけるには、風花さんへの態度が不自然ではありませんか?」



いつの間にこっちへ来たのか、弁慶さんの声がした。

声だけに集中するしかない私には、その声が感情を綺麗に覆い隠しているように感じる。




「君は、風花さんの事で、何かを隠している。
・・・・・・・・・違いますか?」









どういうこと?








「・・・・・・あぁ?知らねぇな。オレが知るコイツの事なんか、望美より少ないぜ?」



「将臣くん」


「とにかくだ、望美。素人に武器なんか持たすんじゃねぇ。分かったな?」


「うん・・・」





小さな望美の呟きと、遠ざかる足音が同時に聞こえた。






「いつまで風花さんに抱き付いているんですか」

「いつまででもいいだろ」

「・・・はぁ。僕は君をそんな節操なしに育てた覚えはありませんが」

「奇遇だね。オレもあんたなんかに育てられた記憶なんかないんでね」




さっきと一転して、軽妙な言葉が飛び交う。





「それより先に帰りな」

「全く君は・・・・・・いいでしょう、今回は貸しですよ」

「いいから行けっての」



ヒノエくんの追い払う様な言葉に溜め息を返して、弁慶さんは「戻りましょうか」と皆に声を掛けた。



ちなみに、まだ視界を塞がれた格好の私は足音しか聞こえない。



足音がだいぶ小さくなったな、と思った時、

やっと私は解放された。



小さくなってゆく皆の最後尾の望美が、徐に振り返る。





「風花〜〜!!
ヒノエくんに何かされたら
後で私に言ってね!


剣の錆にしてあげるから!!」







なんて強くなったの、望美・・・・・・



 






 




皆の姿もやがて見えなくなり、川のほとりには二人だけになった。





夕陽が赤い髪を紅く染めて、端正な顔立ちを更に引き立てている。





そういえば、記憶が無くなってから初めて会った時も、同じように見惚れたっけ。








あれからまだ日は浅いのに

心はこんなに深い。






「さっきは急に悪かったね、風花」


「ううん。恥ずかしかったけど、嬉しかった」





そう言うと、彼は一瞬眼を開いて、綻ぶように笑った。



いつものような笑みではなくて、
照れたように笑う彼は年相応に見えて、とても可愛い。








「へぇ。姫君は、オレに抱き締められると嬉しいわけ?」


「当たり前でしょう?」


「は?」







驚いて、というより唖然として私を見る彼の、
キレイな眼をじっと見つめた。








「だって、ヒノエくんが言ったんじゃない。

記憶なんてあってもなくても、オレに惚れる運命なんだ、って」


「・・・・・・あぁ、言ったけど」







「私はあの一言で吹っ切れたのに。


以前の私も、あなたが好きだったんだなって」



「・・・・・・以前『も』?」


「うん。そして今の私も」





しっかりと頷いた瞬間、また視界は真っ暗になった。





「風花、」




名前を呼ぶ声が湿って聞こえるのも




意外と逞しい腕が、息苦しいほどきつく抱き締めているのも





私の肩に埋めた彼の息が小さく揺れるのも










言葉よりもっと、多くの想いを伝えてくれる。








『記憶なんてあってもなくても惚れる運命』








それは、お互い様なんだと。









「愛してるよ、オレの姫君」





私達は息が苦しくなるまでキスを繰り返した。


彼の唇は、こんなに暖かくって


懐かしい。




 



   
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