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「じゃあ、行ってくるから。いい子にして待ってな、風花」


「ふふっ。いい子にしてるから他の花に眼を移しちゃダメよ?」




祝言を上げて熊野別当の妻になった私。


共に側にある幸福の中で、分かった事がいくつかある。



別当殿の仕事は忙しい。

時には熊野水軍の頭領として出掛けなければならない事もあり、そんな時は暫く邸を開ける。






寂しくない、と言えば嘘になるけど。



大丈夫

そんな事で揺れる絆じゃないもの。




「酷いな風花は。オレを目移り出来ない程に溺れさせといて、そんな事言うのかい?」



言葉が終わるや否や、素早くキスをしてくる。



「帰って来たら嫌と言う程分からせてやるよ。どれだけ溺れてるかをね」


「‥‥‥‥‥‥待って」




私は低い声で翻った背中を呼び止めた。



‥‥‥唇の違和感。





「今日は休んで、ヒノエ」


「風花?オレがいなくて寂しいのは分かるけど」


「もう!そうじゃないでしょ。お義父様には私から話すわ、だから‥‥‥」




努めて甘い声音を出しながら、
部屋の隅に放置してあったそれを手にする。




「ね?」


「‥‥‥オレの花嫁は過激だね」




ね?と首を傾げながら、手にした刀を抜いて首筋に当てた。


以前、知盛殿がくれた刀。






ヒノエは動揺すらせず、面白そうに眼を光らせている。




「仕方ないでしょ。こうでもしなきゃ聞いてくれないもの」


「風花の甘いお願いならいつでも聞いてるつもりだけどな」


「熱があるから休め、って言うのは甘いお願いじゃないかしら?」




そう、キスして分かった。
唇は燃えるように熱い。





「無理しないで‥‥‥私を置いていかないで」



切っ先は首筋に当てたまま。


切なそうに見つめると、やれやれ、とヒノエは肩を竦めた。

無言の了承。




「良かった」



刀を鞘に納めて元の場所に戻す。



「じゃあ、私はお義父様に知らせてくるわ」


「‥‥‥行かせない、風花」


部屋を出ようとしたら、背後から肩を抱かれた。





「だけどお義父様っ‥‥‥きゃっ」





そのまま敷いたままの褥に、引きずられた。


何処にそんな力が、とも思うけど‥‥


ほら、凄い熱じゃない。
息も熱くなっている。





「仕方ないかな」



お義父様の元へは自ら行かずに、遣いを出した。


今日は特別、と膝枕をしてあげる。














あれからすぐに眠りに落ちた、彼の寝顔を見つめている。


熱があるからか、頬をそっと撫でても起きなくて‥‥‥






いつもよりもあどけない寝顔に

私はまた、新たな恋をした。





幼子のように


(‥‥‥早く元気になって、私をあなたに溺れさせてね)


耳元で囁いた言葉。



ヒノエが聞き逃す筈がない、と身体で実感したのは数日後の月の夜。






幼子のように
Title : 恋したくなるお題




 


   
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