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「ヒノエってば本当に、どこまでもヒノエなのね」
「‥‥‥突然どうしたんだい?オレはいつだって、お前を愛でる男だけど?」
‥‥‥ああ、やっぱり。
ヒノエってばちっとも緊張感ないのね。
なんて溜め息を付きながらも、そんな彼を頼もしく思う。
「お前の実家に挨拶に行くだけで、オレがどうにかなると思うかい?」
「それもそうね」
望美と朔、白龍とヒノエ達八葉が京に帰って来たのが、一週間前。
この一週間は‥‥‥色々と大変だった。
再会してすぐに私を抱き上げて、走ったのが六波羅にあるヒノエのアジト。
『こっちは風花に飢えているんだ。手加減なしだからね、覚悟しな』
‥‥‥あの言葉の通りに、結局アジトを出たのは翌々日の昼頃だった。
それから京邸に向かった私は望美達と再会の宴を開いて、その際に色々聞いた。
望美達は私が住んでいた世界に三ヶ月あまりいたのだと‥‥‥
『え?風花はヒノエくんから聞いてたんじゃないの?』
『聞いたも何も‥‥‥』
‥‥‥この二日間、彼の口から零れた言葉はひたすら甘い囁きだった。
腰が砕けそうになるくらい、ヒノエは激しかったのに‥‥‥肝心な話は何処へやら。
じろりと睨むと素知らぬ顔で笑い掛けて来る。
色んな話があるはずなのに、思い付かなかった私も私よね。
似た者同士。
‥‥‥そう思うと、嬉しくて仕方ない。
京邸で昼間は望美や皆と過ごして、夜は六波羅でヒノエの腕の中で安らぎと甘い夢を求めて‥‥‥
そして、今日。
平家の邸に向かう。
「身体は大丈夫かい、風花?」
「‥‥‥腰が痛いわ。誰かさんが酷使するから」
「はははっ、すまないね。オレの風花が乱れた姿ってサイコーに綺麗だからさ」
多少の恨みを込めてヒノエに答えると、笑って恥ずかしい事を言う。
そして身を屈めた、と思ったら私は彼に抱き上げられた。
「きゃっ」
視界一杯に広がる綺麗な顔。
煌めく紅い眼に吸い寄せられてしまう。
「‥‥‥オレの腕の中で、オレを感じて、オレを求めて‥‥‥」
そこで言葉を切って、ゆっくり焦らすようなキスをしてきた。
途端に甘く痺れる身体。
往来の真ん中だと言う事すら忘れて、私はヒノエの首にぎゅっと腕を回した。
「‥‥‥オレの為だけに美しく咲く花に、魅了されずにいられると思う?何度でも欲しくなるんだ。風花、お前を」
「‥‥‥もう」
‥‥‥ねぇ、ヒノエ。
その言葉は反則だわ。
すっかり赤く色付いた私の頬を見て、ヒノエはクスクス笑いながら深く舌を絡めた。
「そう言えばこれって、あっちの世界では『お姫様抱っこ』と言うんだろ?」
「そうよ‥‥‥まさか、あっちで他の姫君なんかに‥‥‥」
「ふふっ、妬いた風花も可愛いけどさ。望美に聞いてみなよ。オレが風花しか見ていない、って分かるからね」
「本当かしら」
なんて、本当に疑ってなんていないけど。
「それよりも##NAME1##はどうなんだい?」
「どうって?」
「平家、野郎ばっかりだけど?」
歩くスピードが心なし上がった。
ヒノエは面白くない、って顔をしていて‥‥‥私は内心可愛いなって思う。
それは、私だけが知る表情だから。
「もし私が、他の殿方を見てても、ヒノエが連れ戻してくれるんでしょ?」
なんて言ったら、参ったね、と破顔した。
「‥‥‥好きよ」
「足りないね。愛してる、だろ?」
「‥‥‥愛してるわ、ヒノエ」
「ああ、愛してる。オレだけの風花」
雪の冷たさも感じない位、腕の中は暖かい。
「ところで平家への挨拶って、何の?」
「‥‥‥はぁ?お前ね‥‥‥目的なんてひとつしかないだろ?」
「え?」
「お前の居た世界で言う、『お嬢さんを僕に下さい』ってやつ!‥‥‥これから、お前は熊野別当のたった一人の愛妻になるんだぜ?」
そう言って、私を抱いたままヒノエは走り出した。
私は不覚にも涙が出て来て、彼の肩に顔を埋めて。
こんな幸せがあっていいのかな、と思った。
―――春の訪れと共に、私達は永遠を誓う事になる。
終
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