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「風花殿!京とは人ばかりだな!」


「‥‥‥帝、あまりお一人で先に行かれませぬ様に。風花殿が困っておりますよ」



元気いっぱいの帝が走り回り、時子様が笑顔で嗜める。


「お祖母さま、私は走りたいのだ」


「‥‥‥では、邸に戻って鬼ごっこを致しましょうか?」


「風花殿?鬼ごっことは何なのだ?」



鞠の様に飛び跳ねる帝の手を繋ぎ、京の町を歩く。

邸に戻る道すがら、鬼ごっこの説明をした。

輝く笑顔。


「それは面白そうだな!知盛殿や重衡殿も誘ってみよう」


「ふふっ、いいですね。彼らもたまには遊ばないと」



あれから、私達は京で暮らしている。



鎌倉からは特に目立った動きはない。

恐らく、茶吉尼天という切り札がなくなった今、頼朝‥‥‥鎌倉殿も院宣を破る気はないのだろう。





平家の皆も相変わらず。


知盛殿はいつも怠そうに‥‥‥
たまに、私に刀を向けてくる。



重衡殿や一部の将は和議からこちら、奔走している。











そして、私は


清盛様を失ってすっかり気落ちした帝と、

静かに眼を伏せた時子様のお側にいる。

‥‥‥少しでも慰めになれば、と。






















和議が成って、三月が経った。

冬の訪れは風と共にやってくる。



「寒い」


重衡殿から書を預かり、主のいない梶原邸に届けに出掛けた。

京に雪が降っている。





綿入りの上着の襟を手繰り寄せれば、寒さは少し和らぐ。




今年の冬が一段と寒さを感じるのは、きっと



‥‥‥‥‥‥彼の温もりを知ってしまったせいなのかも知れない。
今、彼がここにいないから‥‥‥










冬の冷たい風が、強く吹いた。




一陣のそれが雪を舞わせている。








あの時の、

花吹雪のように‥‥‥。
















「・・・・・・可愛い姫君。落とし物だよ」


突然、耳元で囁かれる。




振り返ると、手のひらに簪を持つ彼の姿。




出会ったあの日と、全く同じ。








「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



「つれないね、オレの事を忘れたのかい?」






記憶にあるのと変わらない、愛しい笑顔。






「まぼろし?」


「はははっ、やっぱりお前は可愛いね」



ひとしきり笑って、彼は簪を挿してくれた。




「迎えに来たよ‥‥‥‥‥‥オレの、花嫁」


息吐く暇もなく、彼の唇が落ちて来た。







抱き締めた彼の腕

しなやかな背中

堅い胸

温もり、鼓動‥‥‥



熱い唇。





「‥‥‥ヒノエ?」



「ただいま、オレの姫君」


私、今、どんな顔をしているのかしら。




「‥‥‥お帰りなさい!ヒノエ」



涙で視界がぼやける。

力一杯抱き付くと、倍の力で抱きすくめられた。



「逢いたかったよ風花‥‥‥もう離れずに済むんだ」


「本当?」


「嘘じゃないさ。もう終わったから帰ってこれたんだぜ?」





軽いキスをして、ヒノエは私を横抱きに抱え上げた。



「しっかり捕まってな!」


「どこに行くの?」


「景時の邸で皆が待ってる。

‥‥‥だけど、まずは二人きりになれる所かな」


「‥‥‥昼間なのに」


頬を膨らませると、ヒノエの眼が妖しく煌めいた。

抱き上げられたまま、耳元でゆっくりと囁かれる。



「だから何?こっちは風花に飢えているんだ。手加減なしだからね、覚悟しな」



‥‥‥それは私も同じなのだと、二人になったら伝えよう。








不思議。
あなたさえいれば
もう、寒くなんてない。










 





春の訪れと共に、いつになく活気が溢れている。


ここは熊野




店先には至る所に色とりどりの花飾り。


心なしか、人々の顔は明るく浮かれている。

行き交う人の話題はただ一つ。






熊野別当が迎えた、花嫁のこと。








白龍とその神子達が祝福する中‥‥‥


婚礼衣装の花嫁は、とても美しい笑顔を浮かべていたのだと。

そして別当は、ただひたすら花嫁しか見ていなかった、と‥‥‥。

熊野の民は、若く熱い二人を歓迎した。





見ているのが恥ずかしい位に幸せそうな二人を祝福するように、眩しい程の青空。


大勢の観衆の前で長い永い口接けを交わした二人は、空に負けない程澄んだ笑顔を浮かべていた。












あなたと出会ったのは

運命の戯れだったのかもしれない






けれど、結ばれるのは必然






出会った瞬間恋に落ち、

激しく燃えた二人の風火





消えることなく

揺らぐことなく





いつまでも、いつまでも








「ヒノエは今幸せ?」


「当たり前だろ?風花がいればオレは幸せだよ。

‥‥‥ずっとお前を離さないよ、オレの花嫁」










風火戯曲・完








  
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