(2/3)







望美と話し合う前に、ヒノエにちゃんと説明したい



私が言うと、彼女は頷いた。




「わかった。じゃあ明日ね!
ヒノエくん、風花に手を出したら‥‥‥」


「さぁね、どうしようかな」



飄々としたヒノエに諦めたのか、望美は肩を竦めた。






「また明日な」



そう言って私の肩を抱いて、宿に背を向けて歩き出すヒノエ。



「どこ行くの?」


私の問いに、ニヤッと笑う事で彼は答えた。























あれから、望美達とは別の宿についた。

部屋の一室で夕食を終えた私達は、向き合って座っている。


「‥‥‥‥‥‥もう知ってると思うけど」


話の切り出しはこうだった。


「私のこっちでの名前は、平風花。清盛様に拾われて、養女になってもうすぐ二年になるの」



知っているでしょう?
と問い掛ければ、眼だけで頷く。








ぽつぽつと話し出す私。

急かす訳でもなく、優しい眼をしたヒノエが聞いている。




「‥‥‥私が刀を持とうとする癖に気付いて、烏を使って調べたのよね?私の素性を」


「‥‥‥は?何故烏の事を‥‥‥」



僅かに眼を見張る。
そんな彼に向かって、再び口を開いた。



「そういえば、まだ望美に返事していないのよね?熊野が源氏につくかどうか」


「明日には返事するつもりだけどね」


「熊野は源氏につかない、でも平家にも味方しない。
‥‥‥そしてヒノエ個人は、八葉として望美に協力する。

でしょう?」




‥‥‥一瞬、鋭い眼に射竦められる。

ほんの瞬き程の間。





次の瞬間には元に戻った。




「‥‥‥なかなかの洞察力だね」


「洞察なんかじゃないわ。見て来たの、望美と」


「‥‥‥‥‥‥見て来た?望美と?」



ヒノエの問いに、私はしっかり頷いた。

目を閉じて一度大きく息を吸って吐く。






再び目を開けた私の両手を、彼の手が包んでくれた。






「信じられないかもしれないけど‥‥‥私と望美は、時空を超えて来たの」


「‥‥‥‥それで、さっき、望美と二人で話をしてたのかい?」



唐突な話にも動じる事なく、冷静なヒノエに‥‥‥‥‥心底感心しながら頷いた。





それからそこで、躊躇する。








‥‥‥全部、包み隠さず言いたい。


けれども、全て話したとしても、ヒノエがどう受け止めるのか。



彼ならば信じてくれる。
それは、分かっているけれど‥‥‥


彼の命を奪ったのは私だと、言ってしまうのが怖い。




 
 


言葉もなく俯いてしまった私の頬は、暖かい手によって捉えられた。

少しだけ込められた力で上向かせられると、触れるだけの唇。





「大丈夫だから話してみな。どんな事でもお前の言葉なら、受け止めてやるから」







胸が熱くなって目を閉じると、再び唇に感じる熱。






「お前がそんなにためらうって事は、それだけ辛い事があったんだろう?」


「‥‥‥‥ヒノエ‥‥」



ダメだ。

視界が揺れてきた。





「‥‥‥何があっても側にいる。だから」





今度は少し深くキスをして
私の耳元で囁く。




「オレの前では泣いていいんだ、風花」





「‥‥‥‥ノエっ‥‥‥ヒノエ‥‥!!」









堰を切ったように後から後から溢れてくる涙。

泣き出した私を座ったまま横抱きに抱えて、膝の上に座らせてくれた。





そのまま、泣きじゃくる私の背を撫でてくれながら

額に、頬に、何度もキスをしてくれる。










時空を超えてからずっと張り詰めた心を、癒してくれたのは、やっぱりヒノエ。








「ありがとう、ヒノエ‥‥‥」




記憶を失っても

あなたに刃を向けた時も


変わらず私を想ってくれたヒノエに感謝した。





彼を信じて、全てを話す。










平家のこと

知盛殿に刀を習ったこと


前の時空で起こったこと‥‥‥








結局、私は

あなたを炎の中に残したのだ、と。







 
→next



 
戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -