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『――望美?』

早春の風が強く吹いていた。

『風花!?大人っぽくなってたから判らなかった!!』

法住寺から珍しく外出した私は、望美に再会した。
抱き付く望美の温もりが嬉しい。

『風花、良かったら私達と来てよ!』

『私達‥?』

『私、白龍の神子なんだって。八葉の人達と一緒に怨霊と戦っているの』

『‥‥‥怨霊を?望美が?』

『うん。譲くんも八葉だから、一緒に源氏に・・・・あっ』

源氏だとうっかり口が滑ったのだろう。
驚いてそれから『風花の前だと嬉しくてつい』と苦笑いする望美は、以前と変わらないままだった。


『そう‥‥』







【源氏】







その一言で決まった。

『半年間お世話になった人が、亡くなったばかりなの。どうせ一人だし、望美と一緒に行くわ』


‥‥‥ごめんね望美。

親友の好意を利用して、敵方に潜り込むなんて最低だわ。
それでも私の中で、清盛様は、平家は絶対なの。




迷いはなかった。





荷物を取りに行くから一刻後に、と約束して法住寺へと引き返す。

『探してた友達を見つけたから、暫く共にいる』

知盛殿に、将臣と清盛様への言付けを託し、望美の元へ走った。








刀は、置いていくしかなかった。
非力な女でなければ疑われるもの。






 
 



くるくると



記憶の底から

光景の ひとつひとつが



色 鮮やかに 動きだす








これは   夢

懐かしい、私の全て






この先に見る情景を 私は待ち遠しく思った




運命の戯れが生み出した


最愛の

彼との 出会い















  


六波羅に
春風が、強く強く吹いていた。








春の嵐







風が髪を巻き上げる。









『・・・・・・可愛い姫君。落とし物だよ』


突然、耳元で囁かれる。




振り返ると、手のひらに簪を持つ彼の姿。




簪より、綺麗な顔より。


簡単に背後を取られた事が衝撃だった。


伊達に知盛殿に鍛えて貰った訳じゃない。
なのに背後を取られるなんて・・・



『‥‥本当だわ。ありがとうございます』

『待ちなよ。名前くらい教えてくれてもいいんじゃない?』


笑顔で受け取り踵を返す私の腕を掴み、呼び止めた。


『オレはヒノエ。姫君は?』

『・・・風花』

『へぇ、風花って言うのか。可愛いじゃん』

『じゃあ私はこれで‥‥』

『つれないね、風花。まぁ今日はお近付きになれたし、これでいいか。

‥‥白龍の神子さまに、よろしく』


『・・・・・・・・・何の事かわからないわ』

『そんな怖い眼するなよ・・・そんな風花も魅力的だけどさ』

『――何が言いたいの?』

『伊達に六波羅に住んでる訳じゃないって事。

なぁ、いつか風花の事も教えてくれよ』

『そのうちね、じゃあ』




今度こそ、踵を返した。

二度と会う事はないでしょうけど、と思いながら。





変な男。

侮れない男。



私の正体はバレてないようで安心したけど‥‥





だけど、脳裏に鮮やかに焼き付いた








紅い炎










思えばこの時から、彼を好きだったのかも知れない。




 思い返すだけで、とくん、となる胸は

正直だった。




 




  
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