序章・葵 (2/9)
「待…って……」
ハッと気が付けば、そこはベッドの上。
カーテンが僅かに遮った光は、朝を告げる新しくも柔らかいもの。
「………夢」
半ば回らない頭がやっと、煩く響く目覚まし時計の存在を認識した。
手を伸ばして止めて、ハンガーにかけられた制服に手を伸ばす。
「……夢、だったんだ」
何だろう。この締め付ける微かな胸の痛みは。
「おはよう」
リズミカルな音を立てて階段を降りれば、キッチンには母の姿。
いつもの風景に、ホッと胸を撫で下ろした。
「おはよう……あら?珍しくぼーっとしてるね」
「…ん。夢を見て…」
「あら、そうなの。早くしないとあかねちゃんと詩紋くんが来る時間よ」
見上げた時計の針がそれを裏付ける。
「…本当、急がなきゃ」
変わらない日常に頭が戻る。
もうすぐ親友と後輩が迎えに来る。
やや急ぎ気味にトーストをかじりながら、ふと過ぎった。
夢の中で出会った冷たい瞳
「どうしたの?手が止まってるわよ?」
「………何でもないよ」
今日という、一日が始まる。
けれどあの眼差しは忘れる事が出来ないと思った。
序章・葵
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