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「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥将臣くん」
「お、俺じゃねぇって!これはだな、ヒノエから唐の交易土産で‥‥‥」
「ふうん」
思い切り頬が引き吊るゆきを前に、誤解ないようにと弁明する俺も必死。
‥‥つーか、待て。
別にこんな必死に言い繕う必要もないよな。
ヒノエの土産だってのも事実だし。
「ま、せっかく貰ったんだし着ろよ。な?」
「‥‥‥だってこんなの着たら将臣くん‥‥‥朝まで放してくれないでしょ?」
‥‥‥‥‥‥図星。
顔に出たのか、ゆきが若干冷たい視線を向ける。
「‥‥‥いや。んな事ねぇって」
思わず首を横に向けて視線を逸してしまった。
すると頬に触れる、ひんやりとしたゆきの手。
手はそのままに、ゆきが俺の顔を覗き込んで来た。
「ほんと?」
「ああ」
馬ー鹿。
嘘に決まってんだろ。
本音を言えばゆきは絶対着ないだろうから、誤魔化す様に。
そんな嘘は許される。そう思いながら。
「ヒノエが折角お前に送ったんだぜ?一度ぐらい袖、通してやれよ」
「うぅっ」
情に弱いゆき。
そして押しにも弱いゆき。
陥落させるまで、あと一息。
「‥‥‥分かった」
「おう」
「今度ヒノエに会う時に着て見せる」
「‥‥‥‥‥‥そう来たか」
脱力して頭をガリガリ掻き、正面に立つゆきの肩を押さえ引き摺るようにその場に座った。
なんだ。
どこまで鈍いんだコイツは。
「誰が見せるかよ」
「‥‥‥ゃっ‥」
「それは俺だけの特権だろうが」
「それじゃ意味な‥‥っ、んっ」
弱い耳元に口を寄せれば、ゆきの身体が小さく跳ねて、俺の気を良くさせた。
「ま、俺が見たいっつーのも本音だけどな」
「‥‥‥‥俺『も』じゃなくて、俺『が』でしょ、将臣くんは‥‥」
「ははっ。違いねぇ」
熱い視線をぶつける。
するとゆきの眼は、潤み始めた。
‥‥‥昨夜の事でも思い出したのか?
それが可笑しくて笑いそうになる頬を引き締める。
俺も妙な所で必死だな。
「‥‥‥ちょっとだけ見せたら、すぐ着替えていい?」
「おー、いいぜ」
「‥‥‥‥‥‥分かった」
「後ろ向いてて!」と恥ずかしそうに俯くゆきに、「今さら。毎晩見てんのに」と答えたら頭を叩かれた。
笑いながら向きを変えた、背中越し。
伝わる衣擦れが愛しかった。
「しっかし、目的は何だ?」
アイツも俺と同じ趣味なのか?
ゆきは可愛いし、あんな格好をさせてみてぇ、とか?
それとも、俺を喜ばせよう、としたとか?
‥‥‥‥‥‥いや、ヒノエに限ってそんな訳ねぇか。
野郎に優しくするタマに見えないし。
「ま、俺以外に見せる機会はねぇしな。ご愁傷様」
「え?何か言った?」
「何でもねぇよ」
「そ?あ、もういい‥‥よ?」
少し経って現れたのは
赤のチャイナドレスが可愛い、ゆき。
躊う事なく手を伸ばした。
Venus
「将臣くんの嘘つき!何もしないって言っ‥‥‥‥‥‥んんっ」
ほんっとお前、学習しねぇんだな。
な?可愛いゆきチャン?
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