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「‥‥‥あっ‥‥もう無理ぃ‥‥」

「よく言うぜ。ここは素直じゃねぇか」

「‥‥‥っ‥や、ぁ‥‥ほんと、に無理ぃ‥」



ゆきの懇願の声が甘く響く。
何度も、何度も繰り返される行為に、元々体力があまり強くないゆきは限界を訴える。

涙を浮かべて。


それが更に俺を煽るんだ、と何度言えば伝わるのだろう。
無理と言いながらも、表情はもっと欲しいと訴えている様に見える。

普段は幼い印象を与えるゆきだが、この時ばかりはガラッと変わる。
半開きになった唇が濡れ涙を浮かべて俺を見て来るんだ。


こんなゆきを俺以外に誰も知らないと言う優越感と、愛しさと、湧き上がる興奮‥‥‥。
飽きる日なんか来ないだろう。


「‥‥‥分かった。やめるぜ」

「ほ‥‥んと?」



馬鹿。
だからそんな眼をするなって。



「‥‥‥あと一回だけな」

「!!もうっ」



雨で濡れて冷えていた互いの身体。
籠る熱で溶けそうな程だった。
















「将臣くん、聞いてくれる?私がここに来た理由」



暫く二人して放心していたが、ゆきが起き出して枕元にあった着物を羽織った。



「ん〜?‥‥‥いいぜ」



そんな不安そうな顔すんな。



何を聞いてもお前を手放したりしないから。

やっと手に入れたんだ。

狂いそうになる位に欲しかったお前を。



「私ね、‥‥‥望美ちゃんと約束したんだよ」

「約束?望美とか?」

「うん。
‥‥‥‥‥‥何から話せばいいのかなあ?望美ちゃんの、長い長い話から‥‥‥かな」



褥の上で向かい合って座る。
ゆきは俺から視線を外して、庭を見た。

眼を伏せて耳を澄ます。
そんな仕草がこいつをひどく大人に見せた。


夕日が照らすその横顔が綺麗だと純粋に思わせる。



「うん、誰も聞いてない」

「‥‥‥人の気配とか分かんのかよ?」

「いつもって訳じゃないんだけど、集中したらね。これでも陰陽師だよ、私」



小さく笑う。





それが俺を受け入れた証なんだと思うと、胸が締め付けられる。
‥‥‥いつの間にかお前が俺の中心にいるんだと気付いて。



雨はとっくに上がっていた。
庇からポタポタ落ちる水滴が、茜色の夕陽に反射して、光る。

ゆきの眼はじっとそれを追っていた。




「‥‥‥将臣くんとこっちに来る事になった前の夜ね、望美ちゃんが私に話してくれたんだ」



その言葉を聞いて、ふと思い出す。
京に向かって旅立つと決めたゆきが、あの時呟いた言葉を。



「そういやあの時、何て言ったんだ?‥‥‥誰かを助けたいとか言ってたよな?」

「え‥‥?聞いてたんだ?」



そっかあ、と照れて顔を赤くしていた。
まさか聞かれていると思ってなかったらしく、何とも評しがたい顔で俺を真っ直ぐに見た。



「‥‥‥みんな」

「は?皆?」

「うん。源氏も、平家も‥‥‥将臣くんも、みんな」

「‥‥‥‥‥‥」

「和議を成功させる為に、私は動く事にしたんだ」




望美がそんな大層な事を考えていたと聞いて驚いたが、和議を真に受けて「何か」をする為に平家に来たゆきにも驚いた。


それから、長い長い話が始まった。













‥‥‥‥‥‥白龍の神子である望美は、言わば源氏の神子。
そして、九郎はやはり源九郎義経だった。



望美は何度も時空を超えたという。

初めてここに来た時に、源氏が、仲間が、そしてゆきまでもが無残にも命を散らしていくのを目の当たりした。
白龍が存在と引き換えに託した、喉元に輝く鱗―――逆鱗の力で、望美は時空を超えたと言う。



何度も何度も、世界を行き来しては
滅びに向かう仲間を見て来たらしい。



「将臣くんが平家の将だって言うのも、時空を旅して知ったんだって」

「‥‥‥そうか」

「対立した事もあったって。でも、やっと皆と気持ちが通じて‥‥‥ひとつ前の時空で、和議を結んだんだって」



話は続く。

神泉苑で結ばれた和議は一見成功したかの様に思われた。

‥‥‥だが。



「‥‥‥‥‥‥黒龍の逆鱗?んなもんがあるのかよ?」

「うん。白龍の対だからね、黒龍自体は消滅したらしいけど‥‥‥逆鱗は存在してて、清盛さんが持ってるって」

「‥‥‥それで、和議の時に清盛が逆鱗を使った‥‥‥」

「その後に、政子さん‥‥‥ううん、茶吉尼天が現われて、清盛さんは消えたって」



茶吉尼天、と口にした瞬間、ゆきの顔が青褪めた。
怯えているんだと分かる程に。



「‥‥‥お前は会った事があるのか?その、北条政子の本性に」

「本性、じゃないんだけど‥‥‥政子さんには。怖い人だったよ」



茶吉尼天が招いた混乱は、世界を暗雲に飲み込んだという。


‥‥‥そして、再び望美は跳んだ。


今度こそ和議を成功させて、平和を。

そう、願いながら。



















「‥‥‥‥‥‥お前はそれを信じているのか?」



ゆきの言葉を聞いて、望美が様々な事柄を知っていると聞いても尚、俺には夢物語のようだと思った。



望美は俺達平家の事に精通し過ぎている。
清盛の事まで、それは正確に。

それでも俄には信じられない。信じられる筈もなかった。




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