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「将臣くん、どうしたの?」

「あのなぁ‥‥‥迎えに来たんだよ、お前を。つか、取り敢えず黙ってろ」



後ろから両手でぎゅっと抱きしめられる。
最初はこんな事をされただけで、怖いと思ったのに。

‥‥‥いつの間にか安心させられるモノになっていたなんて、不思議。



「お久し振りですね、将臣くん」

「そうだな。それより、こいつに用かよ?」

「ふふっ、彼女に会うのが懐かしくて昔話をしていたんです。まさか話をするのも駄目だなんて了見の狭い事は言わないでしょう?‥‥‥君も」

「昔話?俺には口説いているように見えたけどな」

「将臣くんがそう聞こえたのならそうでしょうね」



二人の会話の意味は、深く考えないことにした。

ううん。
本当は怖くて考えられないんだけど。

‥‥‥空気が、物凄く張り詰められているから。



「あのね、まさお‥」

「ゆきに手ぇ出すなよ?こいつは俺のモンだから」



呼びかけようとした私を遮って、将臣くんが鋭い声を弁慶さんに向ける。


そのまま、ぐいっと手を引かれた。



「ま、将臣くんっ‥!?そっちは反対じゃ」

「いいから黙って付いて来い」



なんか、怒ってる?

それ以上は何も聞けなくなって、肩越しに振り返ると弁慶さんがこちらを見ていた。



「あの、私‥‥‥幸せになります!」



引かれた手に必死に付いて行きながら、私は叫ぶ。

心配してくれていた優しい人に、届くようにと願いながら。
























重い衣を引き摺りながら、何とか走って辿り着いたのは、空いた一室。

将臣くんに続いて入った時には、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。



「あの、将臣くん‥‥‥主役が宴を抜け出して良かったの?」

「さぁな。何とかなるだろ」

「何とかって‥‥‥もう」



良かった、怒ってない。

ホッとした私は疲れも手伝って、入り口近くの壁に凭れた。




‥‥‥それが間違いなんだって気づいたのは、すぐ後のこと。



「あいつと逃げたいか、ゆき?」

「え?‥‥わっ」



ダンッという音にびっくりして思わず眼を瞑る。




間髪入れずに唇が塞がれた。




‥‥逃げたいか、なんて聞くの、変だよ将臣くん。

逃げさせる気なんてないくせに。









暫くは舌を絡めあう水音だけが室内に響く。



笛の音も聞こえない、完全に二人しかいない空間。



「‥‥‥はぁっ」



キスから解放された私は息を荒く、眼を開けた。




背には壁、両側には逞しい肘を付いて。
将臣くんに囲まれている私。


そして正面には闇夜に光る狼のような眼光に、思わず身体がビクリと震えた。


‥‥‥これから始まることを、予感して。



「‥‥‥‥私の居場所はここだもん」

「ここ?この部屋か?」

「意地悪‥‥‥」



将臣くんの眼が輝きを増す。

それだけで身体の芯が疼く、なんて私は変わってしまったんだろう。
‥‥‥将臣くんの手にすっかり染められたんだ。



「将臣くん、好き」

「おまっ‥‥‥反則だっていつも言ってんだろ」

「うん。でも、私は将臣くんのモノだから‥‥‥安心して?」

「‥‥‥‥降参」



壁に付いていた肘をはずし、一呼吸。
将臣くんの視線が今度は、下から上へと私の全身を見回した。



ああ、そっか。今頃また思い出す。


花嫁衣裳の私を。


何も言わずにじぃっと見つめてくる。
だから緊張して、ドキドキしてきた。



「へ、変じゃないかな?」

「‥‥‥ぶっ」



そう聞いた私に、慌てて口元を手で隠すけど、吹き出して笑っているのがよく分かった。



「わ、笑うことないじゃない!?」



もう、着替えてくるんだから!


ムッと膨れる私に、「ごめんごめん」と言いながら、掠めるようなキスをしてきた。

唇が離れる今度は頬を両手で包んでくれる。



「見惚れる位綺麗だぜ‥‥‥笑ったのは、あれだ」

「あれ‥‥って」

「お前って凄いな。着るもん一つで雰囲気変えるから‥‥‥癖になりそうだぜ」

「く、くせ!?」



不意に強い力でグイッと引き寄せられるて、その力強い腕の中に抱きしめられた。

心底驚いた私の耳。
捕まえた獲物を食べる時みたいに、舌で舐め上げる。



「ひゃぁっ‥‥」

「けど今は、消毒しないとな」

「‥‥しょ、消毒って‥‥うんんっ」

「あいつに気安く触らせるな。いや‥‥‥誰にも、触らせない」




二人とも十二単なんか着付けできないから。

なんて理由で脱がされる事もないままの行為。


‥‥‥腿を辿る指。



「やぁっ‥‥‥」

「お前は俺だけのモノだよな。嫌だとは言わせねぇ」

「‥‥‥んっ」

「俺の事しか考えられないように、消毒」




‥‥‥皆、待ってるのに。
ううん、もしかしたら今頃誰かが探してて、此処にも来るかもしれないのに。


こんな所、誰にも見られたくないのに‥‥‥。




それでも燻る熱を沈める方法は、一つだけ。

乱さないように器用に動く将臣くんの汗が、私の頬に落ちて‥‥‥それにすら興奮させられた。


私をこんな風に変えたのは、将臣くん。



「‥‥もっ、戻らなきゃ‥」

「は?まだ足りる訳ねぇだろ」

「お願い‥‥‥だ、『旦那さま』、っ‥‥ひゃぁっ」

「‥‥‥お前っ‥‥‥それ、逆効果」

「え、ええええっ?」












あなたの腕は


楽園にも似た―――






最後の一滴まで奪いつくす、甘い檻







  

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