「え〜?でもやっぱりカッコいいと思わない?」


同僚兼友人の言葉を聞いて、持ってた紙コップを取り落としそうになる。


「まぁね、確かに見た目はピカイチだと思うわ。でも、あの性格はちょっとね〜」


別の同僚の言葉さえも私は黙って聞く。


それには流石に「格好いい」と言ってた彼女も言い返せないようだ。
そして食らい付くのは、食堂でランチ中の女性社員‥‥‥言わば、同僚、とでも呼ぶ彼女達。


「何アレって思っちゃうよね。冷静と言えばよく聞こえるけど、どっちかって言えば冷徹?」

「あ〜、うんうん。仕事中の私達を見る目、まるで物見てるみたいだし」

「つーか、物だよウチら。能力の無い奴とは話す価値なし、って態度だよね」

「だよね!何様だ」

「傲慢だし、冷たいし。本性知ったら醒めるよ、あれは」


それはただ彼女達の仕事に向ける態度所以では‥‥?


そう思いつつも、事なかれ主義を決め込んで、私は紙コップを啜る。
食後のコーヒーはすっかり温くなっていた。






ざらついてきた心を宥める為此処から離れたい、そう思った。









「あーあ。すっごく格好良いのに勿体無いよね、有川譲」









‥‥‥‥‥‥。



ガタンと音がした一瞬。

音の発生源は自分が座っていた椅子だと知って、自分でも呆気に取られた。


何故席を立ったのか。
何故我慢出来なくなったのか。



腹を立てているのは、何故なのか。



「‥‥‥勿体なく無いわ」

「奈々?」



ぽかんとしている彼女達の顔を一通り見渡してから、空のコップを持ち席を離れた。
ダストボックスに突っ込めばカコンと良い音。
ちらりと一瞥して食堂を後にした。





今頃、私の事を話しているかもしれない。

漸く築き上げた、女同士の微妙な同僚関係なのに。


事務職の彼女達と、一人だけ専門職の私。
優越感も劣等感も刺激しないで、嫌われぬよう。
昼休みにランチが出来るような‥‥‥。

一見仲良さげで、その実心を許せない微妙な関係は、それでも職場で上手く生きて行く為の基盤。


あんな態度など取らずに、メイク直してくるとか、もっと色々口実があったのに。




性格、悪くなんて無いの。


ただ仕事に厳しいだけ。
自分にも、他人にも。

だから、適当に仕事すればいい、と考える彼女達を見ていない。

それだけなの。







「水嶋、戻ったのか」

「何で私の仕事を弄ってるの」


いつもより早くデスクに戻った私より、彼の方が早く。
そもそも昼食も此処で摂っているのかもしれないけれど、私はそこまで関与しない。




私達は同僚と言う名の、他人




「さっきのデータ、大まかな訂正箇所は示しておいた。修正は自分で出来るだろ」

「戻ってきたら自分でチェックするつもりだったの。余計なことはしないでくれる?」

「俺の方が正確だ。今日仕上がらなかったら会社の信用が潰れるからな」

「ありがとう、と言うべきかしら?でも、自分で出来るの。迷惑よ」




傲慢で、冷徹で、何様。


確かに今の有川譲はそう言われても仕方ない態度。





けれど、私は知っている。



有川譲が、言葉通りの人じゃないことを。



キーボードを叩く長く綺麗な指に、

薄っすらと指輪の跡が残っていることも。



 


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