絶賛片思い中の相手にドライブデートに誘われた。ロマンスの神様、脈ありでしょうか。 なんて有名なメロディを脳裏で流しながら、運転席に座る男の横顔をちらりと見る。運転する男というのはどうしてこうも色気があるのか。いや、隣にいる男はそんなことしなくたって十分すぎるほど色気に満ちている。野球してても勉強していても、飯食ってるだけでさえ他人の注目を集める。御幸一也という男は、そういう男だった。 学生の頃、同級生だった彼はプロ野球選手になっていて、何年か前に同窓会で再会した。ひょんな縁がありちょくちょく連絡を取るようになり、そんな些細なやり取りですっかり私は骨抜きにされていた。けれど相手はスター選手、どうせいつかはモデルやら女優やらアナウンサーやらアイドルやらとゴールインするのが目に見えているのだから、本気にするなと自らに言い聞かせていたというのに、今日は何故かドライブデートに誘われた。ロマンスの神様、やはり脈ありでしょうか。 「(……でも、なーんにも言ってこないんだよね)」 そう、残念ながら彼からそういったモーションの気配は微塵も感じないまま、一日が過ぎてしまった。海岸沿いをドライブして、必死のリサーチの末見つけた穴場のランチに舌鼓を打ち、そして帰り道に至る。健全すぎて涙が出るデートである。もはやデートと呼んでいいのやら、だ。 静かな車内を、ラジオが流す昭和の名曲集だけが満たしていく。幸か不幸か、デートの終わりをせき止めんと渋滞につかまってしまい。車はミリ単位でしかタイヤを動かさなくなってきた。会話まばらになり、お互い欠伸を噛み締めるような状態で。 「寝るなよ」 「ね、寝てないし」 そんな私の様子をちらりと見て、御幸は釘を刺す。流石に運転してもらってる身で助手席で眠りこけるほど恥知らずではない。眠気覚ましに運転を代わってやりたいところだが、生憎こんな高級車を運転できるほど図太くない。弁償できるほどの稼ぎもないので、大人しく彼の行為に甘える他なく。高給取りめ、と恨みがましく呟くと、彼はふはっと力の抜けるような笑みを漏らす。 「そんなに運転したかった?」 「眠気覚ましにはなるでしょ」 「別に寝てていいけど」 「男の横で寝こけるほど女捨ててませーん」 こうしたやり取りもいつものことなので、欠伸を噛み殺しながら適当に返す。普段なら『どこに女がいるんだよ』といった舐めた言葉が返ってくるというのに、今日に限ってない。寧ろにやにやと笑いながら、こちらを見ていて。 「ふーん?」 「な、なに」 「なーんでも」 そう言って、前向けと言うより先に御幸の視線はフロントガラスへ向けられる。いつまでも進むことのない渋滞は、まるで私のようだと思った。強硬手段でも取れば、少しは何か変わるだろうか。だけど、悪い方へ変化してしまったらと思うと、怖くて一歩も踏み出せない。この関係が終わってしまうくらいなら、いっそ渋滞に巻き込まれてた方がいい。勿論、彼がこの状況を打開してくれるならそれが一番なんだけど。残念ながら御幸は先の見えない渋滞を、ただぼんやりと眺めるだけ。 「ったく、早く動いてくんねえかなあ」 うるさい。こっちのセリフだよ。 |