Brave×3

※恋愛的には弓場ちゃん夢ですが8割8分藤丸ののしか出てきません














「ののネキ。折り入ってご相談が」

「よしきた。表出な」

 流石ののネキ話が早い。愛してる。

 ネキと呼んではいるがののとは同い年で、羽矢と同じで中学から大学まで一緒の大親友だ。ミリオタ拗らせて高校在籍時からボーダーの武器開発部にバイト(助手)として入り浸っていた私を手放しで応援してくれたのはののと羽矢だけだった。あの頃はボーダーへの風当たりも強かったし、未成年だったこともあり随分苦労した。だが、ののや早矢がオペレーター入りしながらも傍で叱咤激励してくれたおかげで、気付けば私はこの年にして武器開発のチーフ・エンジニアとなっていた。今は様々な《銃手》用銃器の開発に携わっている。弧月やスコーピオンと違って、《銃手》は人によって形態が大きく異なる。マシンガンタイプを愛用する人もいれば、ハンドガンタイプを好む人もいる。ショットガンからリボルバー、更にはグレネード型まで、戦闘スタイルや性格によって実に様々だ。武器の形態は個人の好みによってカスタマイズ可能なので、他武器の部署に比べれば、戦闘員の要望は多い。彼らの希望に答え、時には自らの知識を総動員して彼らのスタイルに合ったタイプの銃を見繕うのは私の生きがいだった。だが、そんな私が目下頭を悩ませているのは、そんな生きがいとは全然全く関係のないもので。

「じ、実は私、弓場君のこと好きになっちゃったみたいで……」

 ののを連れ出し、ボーダーから少し離れた場所の駅前のカフェに駆け込み、私は意を決してそう伝えた。羽矢にも声をかけたが残念ながら王子隊はこの時間シフトが入っていたので、今度別途共有することにする。

 さて、私は幼い頃見た洋画の影響でそれはもう立派なミリオタと化してしまい、お洒落だ恋だとはしゃぐ友人らを横目に、一人黙々とモデルガンの雑誌を愛読していたような女だった。そんな私が彼女たちと同じように、現実に存在する人間に懸想する日が来るとは露とも思わなかったわけだけども。とにかく好きになったものは仕方がない。しかし、記憶にある限りでは恋愛経験皆無な私はどうすればいいのか皆目見当もつかず、親友の一人であり、思い人と同じチームであるののを頼ったわけなのだが。ののは意外そうに眉を吊り上げた。
 
「弓場ァ? そんな仲良かったのか、お前ら」

「弓場君、《銃手》でしょ? それでうちの研究棟によく来てくれてて」

「《銃手》なんざ弓場だけじゃねえだろ」

「そうなんだけどねえ……」

 いつ、どこが、というきっかけはあまり思い出せない。だけど、あの目にもとまらぬ早撃ちのスタイルを確立するまで、彼は何度となく私たちの元へ訪れた。いつもおっきな声で挨拶して研究棟に入ってくるところとか、必ず手土産を持参してくれるところとか、普段あんなに強気なタイプなのに同い年の私や他のエンジニアにはずっと敬語なところとか、前髪アップにしてわたしがカスタマイズしたS&W M66をインスパイアしたリボルバーを構えるところとか──。

「つまるところ……ギャップ萌え、かな」

「ぎゃっぷもえ」

 弓場君の厳めしい顔とはミスマッチなワードに、ののはおかしそうにけらけら笑っている。楽しそうで何よりだ。ひとしきり笑った後、んで、とののが言う。

「私に、何しろって?」

「今、弓場君に彼女がいるかだけ知りたいの」

 正直、恋愛のノウハウは私にはない。だったら人に頼るのが吉なのだろうが、かといって頼りすぎて一から十までアドバイス通りに動くのも何か違う、ような気がする。なので基本的には自分の力で頑張りたいと思うのだけど、唯一懸念しているのが、『彼は既に恋人がいるのではないか』、という点だった。流石に彼女持ちに対して猛アタックかける蛮勇さはない。それなら潔く諦める。いや、ののと羽矢に泣きついて慰めてはもらうかもだけど。ともかく、私は決めたかったのだ。進むべきか、留まるべきかを。

 だが。

「知らねえ」

「ですよねー……」

 一刀両断とはまさにこのこと。興味ねえからなァとカラカラ笑うののを見て思う。いや、そんな気はちょっとしてた。っていうか弓場君が彼女がいることをあちこちに吹聴する人だとは思えないし、ののものので弓場君の交流関係を根掘り葉掘り聞く子ではない。やはり自分で聞くしかないのか。うぐぐ、一気にハードル高くなった。

「研究棟で会えるんだろ? 手前で聞きゃあいいだろ」

「仕事に私情は持ち込まない主義なの! っていうか、それもう告白してるもんじゃん!」

 年頃の女が同じく年頃の男性に「今、恋人いる?」とか、イコール「好きです付き合ってください」、って言ってるようなもんじゃん。探り探りでいきたいのにいきなり直球かますのは流石に怖い。というのも、エンジニアとして、戦闘員として、そこそこの交流があるだけに、気まずい雰囲気になることは何としてでも避けたかった。私だけが傷ついて落ち込む分にはこの際構わないが、弓場君自身が気まずさを感じさせるのはいただけない。ほら、そういうの『告白ハラスメント』って言うらしいし。せめて可能性があるかどうかぐらいは判別した上で行動したい。

 だめか〜と頭を抱える私を前に、珍しくののは首を傾げていた。
 
「そうかぁ? んなもん言い方次第だろ」

「そりゃそうだけど、流石に好きな人相手にさらっと聞ける度胸はないわ……」

「そういうもんか。よし、それならいい考えがあるぜ」

「ほんと!?」

 流石ののネキ頼りになる。こういう決断の早さが、ひいては隊員たちを助けることになるのだろう。つくづく、有能オペレーターとして活躍する親友は我が誇りである。ののは携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。なんだろう。どうするんだろう。そんなワクワクと、ほんの少しのドキドキは、彼女が口を開くまでだった。

「よォ、弓場。今ちょっと時間いいか?」

 抹茶フラペチーノ吹くかと思った。

「いや実はダチがお前のこと好きらしくてよォ」

「(何考えてんのよ、のの──っ!!)」」

「弓場お前、彼女いっか?」

「(おぎゃ──────!!)」

 ここがカフェテリアじゃなくてカラオケの個室だったら大騒ぎでののから携帯を取り上げただろう。でもここは賑やかではあるけど人前で、しかも電話口には好きな人。声を上げて一発でバレるような関係ではないと思うけど、今の私には声なき雄たけびを上げてもがき苦しむしかできなかった。

「おい、聞いてんのか?」

『……』

 いつの間にかスピーカーモードにした携帯をテーブルの真ん中に置いて、ののが尋ねる。重々しい沈黙が携帯から流れてくるのが分かる。電話の先で弓場君がどんな顔をしてるかも含めて、だ。何てことしてくれやがると思う反面、弓場君の口から直接答えが聞けると分かるとドキドキしてきた。全身汗びっしょりで、答えを聞きたいような、聞きたくないような、今ここで大暴れしたいような、そんな葛藤と戦うはめになり。そうして店内のざわめきに沈黙が飲み込まれる頃、ようやくスピーカーから重たげな声が響いた。

『藤丸。そのダチとやらに伝えとけ』

「おお」

『──知りたきゃ自分で聞きに来い、ってな』

 照れも恥じらいもない、私の好きな彼らしい言葉だった。そしてその一言を最後に、通話は途切れた。携帯の画面にはホーム画面がぼんやりと映し出されるだけ。役に立たねえな、とののは毒づいて携帯をポケットに仕舞う。

「だ、そうだが。どうすんだ?」

 ののはどこか楽しげにニヤリと笑んでいる。全く、人の恋路をなんだと思っているのか。だが、ここまで御膳立てされてしまってはもう後には引けない。彼を思ってのことだったが、そっちがその気ならこっちも本気でいかせてもらう。

 決まってる。と私は飲み残したフラペチーノの氷を一気に呷る。


「売られた喧嘩は、買うまでよ!」


 後日、「私のデザインしたリボルバーで戦う弓場君が好きです付き合ってください!」という渾身の口説き文句が功を奏したのか、めでたく弓場君とお付き合いできるようになった。ウッキウキでののと羽矢に結果を伝えると、二人して何言ってんだこいつとばかりの顔をしたが、一応「おめでとう」の言葉はかけてくれたのだった。私はそんな親友たちが大好きである。



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