Pick up line

「やっぱ定番は『月が綺麗ですね』かな」

「『文学に詳しい俺かっけえ』感が鼻についてイマイチやな」

「文学自信ニキに家でも燃やされたの?」

 昨日テレビでやってたイケメンアイドルの特集で、決め台詞である口説き文句を披露してスタジオ内が沸き立っていた。だが、その歯の浮くようなセリフは私にとってはちゃんちゃら気持ちの悪いもので、偶然同じ番組を見ていたという忍足をひっ捕まえて、『みんながときめくような素敵な口説き文句』について々諤々の議論と洒落込んだわけだが。

「じゃあ忍足のいう、コレっていう口説き文句は?」

「嫌やわ自分如きに披露するの」

「あーあー! 披露する予定のあるやつはこれだからなー!」

 ムカつくことに大層おモテになる忍足選手にもまた、伝家の宝刀を隠し持っているらしい。言えや吐けやと言い寄っていると、気難しそうな顔した跡部がやってきた。

「うるせーぞお前ら。廊下まで馬鹿げた会話が筒抜けだ」

「だって忍足が口説いてくれないから」

「人聞きわっる!」

 心底嫌そうに忍足が抗議する横で、跡部は何故か自慢げな顔でフッと笑った。おっと、彼の自分語りが始まるサインである。

「俺様なら──」

「ああーっと!!」

 跡部の声を遮って、私は今日一のでっかい声を張り上げた。まあ、跡部選手の伝家の宝刀に興味がないわけではないけれど、彼の話は長いことでお馴染みだ。聞いてられるかと私は席を立ち上がった。

「いやーん私ったら独語の先生に呼び出し食らってるの忘れてたわちょっと行ってくるね〜!」

 そう言い切って、私はすたすたと教室を後にする。にしても、跡部ってこんな変な話題にも乗っかってくるんだなあ。こないだも宍戸とお笑いの話してる時に首突っ込んできたし、芥川と漫画の貸し借りしてる時にもどこからともなく現れたし、お高く止まってるように見えて、案外ノリのいいやつなのかもしれない。

 すれ違い様に、跡部がくつくつ笑いながら「やっぱ、おもしれー女」なんて呟いてるのが聞こえたような気がした。



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