「真島さん実はネコってほんとですか?」 「殺すぞ」 流石、本業の凄みは迫力が違う。怖い怖いなんて言いながら、二人してくんずほぐれつ合ってたベッドからぴょーいと降りる。ひょんなことから出会った、この見るからに危険な男を、私は大層気に入っていた。触れれば火傷は免れないと知りながら、それでもそこに咲くだけで、手を伸ばさずにはいられない、華。この一つ目の華はさぞ多くの人を魅了してきたことだろうと思う。ただ、それが男女問わずなのでは、というだけの話であって。 「いやあ、真島さんぐらい美人ならそりゃあ可愛がられたんだろうなあと。私としては? 好きな人の知られざる過去のこととか? ものすごーく興味があったり?」 「アホ抜かせ」 相変わらずいけ好かん女や、と言いつつなんだかんだ会えば抱いてくれるあたり、絆されてんだか優しいんだか。まあ、折れるまで熱烈ラブコールを送り続けるだけなんだけども。 「ひどいです真島さん。私、真島さんのことこんなに好きなのに、真島さんは自分のことなぁーんにも教えてくれないじゃないですか!」 「本名も年齢も非公開ゆうてるキャバ嬢に訳あり極道、お互い様やろ」 「えー、そこはお店の方針なんでちょっとー」 まあでも一つだけなら、と私は生まれたままの姿で真島さんに向き合う。私の好きな般若は、今は静かに背を向けたまま。真島さんは静かにタバコをふかして、おざなりな態度で話に耳を傾けている。 「私、母子家庭なんですよ。父は私が生まれてすぐ後にどっか行っちゃって」 「ほおー。ま、よくある話やな」 「私は父の顔も知らず、愛されることないまま育ちました。そんな中、母が最近再婚することになりまして」 「そらめでたいな。店行ったら一本開けたるわ」 「それで私、二十年以上名乗り続けた苗字が変わることになりまして」 「けったいなもんやな、戸籍っちゅうのは」 「──気に入っていたんですけどね。『佐川』」 がしゃん、と、ガラス製の灰皿が無惨に地に砕ける。真島さんの手にしたタバコは握りつぶされ、その灯を失っている。にィ、と吊り上がる私の口角とは対象に、真島さんの美しい唇は真一文字に結ばれたまま。 「可愛がられていたのでしょう、 恨みなのか妬みなのか。或いはどうでもいいのか。 私自身も、その答えを持たない。 |