Price-less

 人には誰しも、役割がある。千空くんも大樹くんも杠ちゃんも、この科学王国では大人も子どももそれぞれ長所や短所があり、それが役割へと転じている。では、長所も短所もない私は、この国で一体何ができるのだろう。

 もともと、偶然であり奇跡であったのだ。秀でたところが何一つない私が、希少な復活液を使わせてまで蘇ったのには大して深くもないわけがある。幼馴染である七海くんと同じ学校に通っていた私は、その日もたまたま彼の傍にいた。謎の光を見るや否や、紳士な彼はすかさず私を庇うように抱きしめた。そうしてそのまま二つの体は石化し、三千年の月日が流れた。そして千空くんたちがやってきた。優秀な船長を求めて貴重な復活液を用いて蘇らせた。さあ、もうお分かりだろう。くっついていた二つの銅像は、たまたま一回の復活液で二人の命を蘇らせた。役割を持つ彼と、役割を持たぬ私を。

 そうして七海くんのオマケとして復活した私は、何かに秀でた役割を持たぬということで、色々な人の手助けに回った。ある時は小麦を収穫し、ある時は裁縫を手伝い、ある時は料理のために獣や魚を捌いた。器用貧乏とはまさにこのこと、ある程度の手助けはできても、何かに突出した能力のない私はひたすらみんなのお手伝い。もともと、そういう人生だった。傍にはどんな荒波をも超えていく幼馴染と、それを手助けする万能の執事様と、たまたま幼い頃から同じ学校に通っているだけの私。それだけだった。だから、自分の価値の無さなんか気にしたことなんかなかった。なのに。

 この《石の世界》に、余剰はない。それぞれが役割を持ち、限りあるリソースを消費して、少しずつ前へと進んでいくみんなの姿を見て、いよいよもって我が身の価値について思い知らされるのだ。ああ、自分は世界にとってこんなに無価値なんだと。それを自覚してしまったが最後、情けないやら気恥ずかしいやらで、いてもたってもいられなくなった。仲良く仕事に取り組むみんなから逃げ出し、一人海の見える丘に佇む。海は好きだ。何千年経っても変わらぬ光景を、私に見せてくれるから。それを目にすると少しだけ、無価値を自覚していなかった頃の自分に戻れるような気がしたから。膝を抱えて、沈む夕日を眺める時間はとても静かで、心地よい。そうしていれば、この静けさと夕日の中に、溶けていなくなってしまえそうな気がした。なのに。

「下らん考えだな。忘れてしまえ」

 現実が、私を呼び起こす。振り向かずとも分かる。元の時代でだって着こなした、海賊風スタイルのまま、威風堂々とそこにいる人の名前。私と違って、価値を持つ人の名前。

「できないよ。私は七海くんと違って、この王国で自分の価値が見出せないの」

 君には分からないよ。価値のある人だもの。この王国に、必要不可欠だもの。君がいなければ、この王国は前に進めないんだもの。私なんかとは違う。彼の傍にいると、その無価値さが浮き彫りになる。輝かんばかりの彼に圧倒されて、ただ惨めだ。こんな世界で蘇らなければ、私はまだ愚鈍でいられたのに。こんな世界に、蘇ったばっかりに私はこんなにも不安定だ。役割とは、立場だ。自らの居場所だ。それをどこにもないのだと決めつけられているようで、息苦しい。なのに彼はその大きな掌で、私の小さな頭を混ぜっ返す。

 何度も言わせるな。七海くんがハッハーと快活に笑い飛ばす。

「この俺が命を賭して守るだけの価値が、貴様にある!」

 ああもう。ほんと、そういうとこ。



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