A Place to Call Home(後編)


「やーっと終わったよい……」

 ゴキゴキと、首を鳴らして医務室を出る頃には、とっくに日が沈んで天高く月が登っていた。

 不死鳥のマルコと呼ばれる男は、白ひげ海賊団の一番隊隊長であり、船医でもある。船医たるもの、他のクルーより先に地に倒れるわけにはいかない。当然だ、船医が倒れしまえば、他の誰がクルーの治療に当たるというのか。故にあの女が戯れを仕掛けた時、他のクルーたちはいとも簡単にその挑発に乗ったが、マルコは静かに、そしてはっきりとその誘いを蹴った。無論、マルコは下戸ではない。どちらかと言えば、お前は不死鳥じゃなくて蟒蛇だろ、と言われる程度の酒豪ではある。では何故、まだ十代と言っても信じられるほど幼く華奢な女からの挑戦を辞退したのか。理由は単純、勝ち目はないと理解していたからだ──二番隊を任せることになった若き隊長、ポートガス・D・エースの話を聞いたその瞬間から。

 エースはメラメラの実を食ってから炎人間となった。無論普段は能力を制御し、常日頃から火だるまになることはない。だが、能力の制御を疎かにすれば、彼はたちまち身体に火を纏う。例えば何か別の作業に集中している時や、例えば風邪を引いたりアルコールに酔ったりして自律神経が通常機能しなくなった時──エースは極端に酒に弱いわけではないが、逆に強いわけでもない。つまり、相応の量を飲めば、エースとて酔いが回るということ。即ち、自身の能力が制御できなくなるのである。しかし、此処が彼の能力の面白いところというか。彼が酔えば、その肉体の一部は炎と化す。そして炎は体内に侵入してきたアルコールに当てられ、文字通り気化する。そしてアルコールが飛べば、脳まで酔いが回り切ることはない。そのためエースは酒に酔うことはあっても、潰れることは絶対にない。彼が潰れることがあるとすれば、それはアルコールがエースの体内で気化する速度を超える量を体内に取り込む、ということに他ならない。

 冗談じゃない。[エース]を潰した女を相手にしろ、だと。それが出来る奴は腹に穴が開いているとしか考えられない。だから白ひげ海賊団VS赤髪海賊団の言霊師・ナギサとの勝負と相成った時、マルコは一人辞退したわけだ。流石に各隊を率いる隊長たちが理性を失くすまで酔うとは思わないが、それでも多くのクルーたちが酒に溺れて使い物にならなくなれば、その分、いざ何かあった時の戦力が削がれるということだ。いくら白ひげがああ言おうとも、マルコにとってナギサは敵──否、敵であったらどれほどやり易かったか。女に敵意はなく、女は何も望まず、女はただ笑うだけ。白ひげはそんな女をついには孫と称するようになってしまった。けれど、女がどれほど平凡で穏やかで取るに足らない望みを抱いていたとしても、その喉に宿った悪魔は平凡で穏やかで取るに足らない、なんて可愛らしい表現では収まり切らないほどの“力”を持っていた。女は白ひげ海賊団の敵ではないのかもしれない。だが、女の力を利用しようと目論む人間はごまんといる。もし、女が誰かに操られていたら。それが“今”でないと、一体誰が否定し切れるというのか。だからマルコは女を警戒する。ただ、それだけの話だった。

 しかし、自ら勝負を仕掛けてくるだけあって、女の「エースを潰した」という言葉に嘘偽りはなかった。何人ものクルーたちが無謀にも勝負を仕掛けに行っては、ジョッキを手にしたまま敢え無く床に沈んだ。そうでなければ、トイレに駆け込むか、手すりから身を乗り出して海に向かって胃の中身を吐き出すばかり。母なる海を汚してバチ当たりな奴らだと、ハナから勝負を捨てて酒を楽しむイゾウはそう笑ったが、全然笑いごとではない。敵──と思っているのはマルコだけなのかもしれないが──を前に酔い潰れる愚行もさながら、その面倒を見るのはマルコたち医療に携わる者たちなのだから。そうして一人、また一人と席を外していき、甲板には見張り連中と白ひげ、そして女だけになった頃には、船中の酒樽の殆どがカラになっていた。海賊にとって、ひいては海を往く者にとって酒は飲み水と同じ価値を持つ。早急に、手近な島に寄る必要が出てきたと、飲み干された酒の量を思うと頭痛がしてきた。

「ったく……いい年こいてどいつもこいつも……」

 そんな馬鹿たちの治療、もとい後片付けがようやく終わったのだ。医務室は顔を青どころか土気色にしたむくつけき男たちでひしめいている。それでも部屋に入りきらない者たちは廊下に山積みにしてきた。そこまで面倒見ていられるか、と吐き捨てて、マルコは船の甲板に出る。

 外は静か。空にはぽっかりと穴が開いたような月が鎮座しているせいか、明るい夜だ。波も穏やかだ、“偉大なる航路”の海とはとても思えないほどに。夏島の気候に入ったのか、生温い夜風が全身を包むように撫ぜていて、ゲロ塗れの男たちと戦っていたあの不快感を拭い去ってくれるようだ。そして視線の先には、大きな背中と、小さな身体。船長であり、父である男と共に肩を並べてジョッキを掲げているのは、“孫”等と称された小柄な女。二人の横顔はこの海のように穏やかで、まるでどこにでもいるような、普通の家族のような光景にさえ見えて。普通──この世で最も、あの女から遠い言葉だと、マルコは思う。どこにでもいるような女の顔をしながら、世界をも飲み込むほどの力を宿したまま、ヘラヘラと笑うのだ。今も、遠めに見える彼女の頬は酒気に中てられて赤く染まり、何が楽しいのか白ひげほどの偉大なる海賊を横にしてただ笑っているだけ。あれのどこが普通なのかと、警鐘が脳裏に響く。だから今も思うのだ。悪魔が再び蘇る前に、屠ってしまえればと。

 ふと、足元に、ピストルが転がっているのが見えた。どこの馬鹿が自分の獲物を落としたのかと、拾い上げて──何を考えるまでもなく、銃口を彼女の背中に向けた。相変わらず、警戒心などまるでない背中。今此処で引き金を引いてしまえば、全てが終わるのではないか。この霧のように掴みどころのない悪魔の力を、海の底へと沈めてしまえれば──。

 その瞬間、ざんと大きな波が船底を叩きつけ、女の背中が振り向いた。

 視線と銃口が──交錯する。

「──」

「──!」

 女は、笑ったままだった。赤らんだ顔をそのままに、穏やかな海風のように笑ったまま銃口を向ける敵に向かったまま。しかして、真一文字に結ばれた唇は動くことない。沈黙が風に乗って二人の間を流れていくも、女は動かずに言葉を口にすることはなく、そして男は引き金を引くことなく女から銃口を外した。

「……なんてな」

 引くわけねェだろ、なんて声は出さないまま、マルコは尻ポケットにピストルをねじ込んだ。そもそも、ここで女を弾いてしまえば、赤髪との戦争は必須。愛した女を殺された赤髪の怒りがこちらに向くのは避けたい。第一、女を敵でないと招いたのは他でもない船長その人だ。この海において船長の命令は絶対だ。一番隊隊長を任されるマルコが、その意思に背く筈もない。

 とはいえ──だ。銃を向けられ、敵意を向けられ、女は微動だにしなかった。マルコには引き金が引けないと分かっていたのだろうか。バックに赤髪がいると理解しているからか。或いは、白ひげの命令を信じたのだろうか。否、否、否、敵船に乗り込んで、敵のクルーに銃口を向けられて、武器一つ持たず、“声”さえなければただの女と遜色のない肉体を持つ女が、それほどまでに理性的な判断が出来るものなのか。

 やはり普通じゃないと、マルコは思う。

「どうした、マルコ。撃たねェか」

 分かり切ったことを、煽る父の背中は酷く意地悪だ。

「撃つ訳ねェだろ。オヤジがそう言ったんだ。第一、おれは赤髪と戦争するのは御免だよい」

「だ、そうだ。悪ィな、ナギサ。おれの勝ちだ」

「ちえっ」

 そう言って女は、まるで参ったとばかりにホールドアップして見せた。勝ち──なるほど、マルコが撃つかどうか、賭けていたのか。舐められたもんだと思いながら、マルコは二つの背中に少し歩み寄る。

「で、賭けの景品は?」

「あァ──そうだな。何にするか」

 きゅぽん、と酒瓶の栓を抜き、またぐびぐびと酒を呷る白ひげ。なんだその賭けは、と呆れ顔を一つ浮かべてマルコは偉大なる父の背中を見上げる。横に並ぶ女もまた、首を傾げて言葉の続きを待っているようだった。やがて瓶の中身を一気に飲み干すと、それを背後に放り投げて白ひげはゆっくり立ち上がる。



「なら──置いていってもらうおうか」



 置いていく。マルコも、そして女もその言葉の意味を計りかねていた。ざん、ざざんと、波音だけが三人の間をすり抜けていき、えも言えぬ気まずさが生まれる。

「……なんだ、ナギサ。おめェ、気付いてねえのか」

 どういうことか。女だけでなく、マルコも言葉に耳を傾けた。

「何故お前が此処に帰って[・・・]きたのか、本当に気付いてねェってのか」

 その一言に、女の湖畔のような瞳が揺らいだ。女には、何か思い当たることがあるのだろうか。確かに、女が突如として此処に出現した理由を、『実家に帰ると言った』と口にした。それを素直に信じたわけではない。だが、女の顔があまりにも茫然としていて、まるで自分が何故ここにいるか分かりませんとばかりだったから。決して、決して信じたわけではないが、彼女自身の言葉に害はないと、判断しただけだ。

 けれどこの反応──やはり女には、心当たりがあったのか。それとも、白ひげの一言によって浮き彫りになった、とでもいうのか。

「ナギサよォ。あれから何年経った」

「……」

「いい加減、おめェも吹っ切れていい頃だろうが」

「……」

「それとも、一生引き摺るつもりか」

「違う」

 初めて、女の強い言葉を聞いた。俯きがちだった顔を上げ、四皇とも謳われた男を見上げる女の横顔は、一端の海賊にしておくには惜しいぐらいの覚悟に満ちていた。

「地面に置いたりしてない。わたし、ちゃんと背負ってる」

 どこにでもいるような女とは思えない、“強い言葉”だった。その言葉に彼女が背負っている命の重みが宿っているような、そんな響き。そうか、とマルコは独り言つ。この女はずっと、救えなかった命を──白ひげの家族を背負っていたのか。そんなか細い背中に、人を背負って歩き続けているのか。

「ハッ、ガラにもねえことしやがる」

 白ひげがせせら笑う。マルコも同じことを考えた。ガラじゃないのだ、そんなこと。この、陽だまりのような中でしか息が出来ないような女には。そんな物騒な力も、人一人の命を背負う覚悟も、本来ならこんな女には不要なものだった。慎ましやかに生きて、どこにでもいるような男と結ばれ、自分によく似た顔の子どもを抱いて笑うような、そういう人生だったはずなのだ。何の因果か、神か、或いは悪魔の悪戯か。けれど現実はそうならなかった。だからこそ彼女は今此処に──立っている。

 けれどやはり、似合わぬ光景だと、マルコは思う。

「だったら、おめェにも分かるように言ってやる」

 白ひげと呼ばれ恐れられた男が、唸るように一言を告げる。

「もう──おれの息子を解放してやってくれ」

 ああ、そうか。女が此処に来た理由を、マルコはようやく理解した。奇しくも女自身も、指摘されて初めて気付いたとばかりに目を見張った。自分自身でも気付いていないなど、何とも皮肉な話だと、女の横顔を眺めながらそう思う。

 女は代わりだったのだ。死んでいった──否、彼女にとっては救えなかった男の命を背負った。帰りたいと、嘆く男の手紙を届けた彼女が知らぬはずもない。それを女は、負い過ぎたのだ。同情だったのか、あるいは罪滅ぼしの心算か。死者に対する過ぎた献身は、いつか彼女の存在は白ひげの息子の無念と同化していたのだ。だから彼女にとって帰る場所はこの船だった。帰ると口にした彼女が此処に現れるのは、実に自然なことだったのだろう。自然すぎて、女は疑問にさえ思わなかったのだろう。

「そっか」

 だからこそ女は実にシンプルに、そう呟いた。当たり前すぎたことを、彼女はようやく自覚した。いや、この場合は知覚したとでも言うべきか。噛み締めるようにうんうんと頷いて、女はニッとはにかんだ。



ただいま[・・・・]

「あァ、おかえり[・・・・]



 この船の上じゃ、まるで聞いたこともない穏やかなやり取り。女は孫のように、男は祖父のように、柔らかな言葉をそう酌み交わした。それだけで、十全だったのだろう。それだけで、十分だったのだろう。。女は嬉しそうにジョッキを床に置いて、トン、トン、トン、と、ステップを踏むように歩き出す。行きつく先はクジラを模った大きな船首。長いワンピースを翻し、くるりとこちらに振り向く姿は、やはりどこにでもいる町娘に見えないけれど。

「もう帰るか」

「うん」

「やり残したことはねェだろうな」

「うん」

「じゃあ、行け」

「うん」

 そして別れの言葉は、酷く呆気ないものだった。先ほどまでは本当に血の繋がりを感じさせるような柔らかな空気だったのに、気付いてみればそこに居るのは二人の海賊。時代を背負った男海賊と、時代を飄々と行く男の隣に立つ女海賊──。

またね[・・・]

 そう言って女は、背中を向けたまま海に身を投げた。

 女の力は理解していようとも、目覚めの悪い光景に思わずマルコは船首に駆け寄る。けれど、暗い海に女の姿も、広がる波紋も、吹き上がる飛沫もなかった。ほっと胸を撫で下ろす感覚に陥るのは、決して女の身を案じたわけではない。女の身に何かあって、赤髪の怒りの矛先がこちらに向くのは御免だ、それだけのことだ。決して、決して女に何かあったら等という考えが過ったなんてことはないのである。

「ったく、また来るつもりかよい」

「別にいいじゃねェか」

「あいつに甘くねえか、オヤジ」

「仕方ねえだろ。初孫だ、甘くもならァ」

「初孫ってあんたな……」

「おめェらが孫の顔一つ見せねえのが悪ィ」

 グララララ、と笑う白ひげはいつにも増して楽しげで。久方ぶりに見る、邪気なく笑う父の顔に息子が一体何を言えようか。何故、否定できようか。嫁もいねえのに娘が出来たか、なんて独り言つマルコに、白ひげはただ笑い飛ばすだけ。

 ひとしきり笑った後、白ひげはその巨体をゆっくりと起こす。

「弾ァ抜いとけよ。でなけりゃ、日が昇る頃にはイカれ[・・・]ちまう」

 そう言って、のっしのっしと甲板を後にする白ひげに、マルコは首を傾げる。そうして記憶の縁から思い当たる節を一つ掬い上げ、彼は尻ポケットにねじ込んだピストルを引っ張り出す。まさかと思いピストルの銃口を外して中身を引っくり返してみれば、床にごろんごろんと転がる三つの色とりどりのキャンディー。

「……そういうことかよい」

 道理で、銃を突き付けて臆さなかったわけだ。なるほど、最初から仕込んでいたということか。全く、意地の悪い賭けで踊らされたものだと、マルコはしてやられたと笑う。そうして笑いが収まる頃には、普通じゃないと、忌避していた何かがまるで、氷のように解けてなくなっていったのだった。





***





 一方、その頃。赤髪海賊団は大騒ぎだった。

「なあお頭!! 本当にヤベーってこれ!!」

「迎えに行かねえと!! あいつ今頃、何されてるか!!」

「いつまで意地張ってんだよ、喧嘩してくれェで!!」

「もういい、お頭なんかほっとけ! 舵切れ! ナギサ探しに行くぞ!」

 居なくなったナギサがいなくなって数時間と経過した赤髪海賊団は大騒動だった。当のシャンクスは意地を張っているのか口をへの字に曲げて腕を組んで黙りこくったまま何も言わないが、内心心配でたまらないはずだ。だというのに助けに行こうとも探しに行けとも言わず、そっぽ向いているだけ。最初こそ痴話喧嘩とからかっていたクルーたちも、一分、一時間と経過するうちに「あれ?これヤバくね?」という雰囲気になりつつあり。そうしてその鬱憤がつい先ほど爆発した。船長がへそ曲げていようが知ったことではない。姿を消した仲間を探しに行かなければと、声高に言った戦闘員を見たデレオンが、ぽつりと呟いた。

「──ところで、ナギサの実家ってどこなんです?」

 刹那、クルーたちの顔に衝撃が走った。

 そういえば、彼女は一体どこの海出身なのだろうか。

「おめー、知ってるか?」

「いやあ……そういや聞いたことねェな……デレオン、おめーは?」

「そういえば、全く……てっきり“偉大なる航路”出身かと」

「確かにあいつに出会った島は“偉大なる航路”だったけど……」

「それじゃ理由にならねえし、第一、範囲広すぎだろ」

「え、じゃあどうやって探せば……」

 そう言って、みんなの視線が徐々にシャンクスに集まるのは自然の摂理だろう。この船でナギサと一番近しいのは間違いなくシャンクスなのだから。しかし、そんな視線の中、シャンクスはぷいっとそっぽ向いてみせた。

 刹那、まさかコイツ、という空気が生まれる。

「アンタまさか、ナギサの出身地知らねえのか!?」

「仮にも恋人だろ!? アンタこの数年、ナギサと何話してきたんだよ!?」

「肉体コミュニケーションばっかしてる場合じゃねェだろ羨ましい!!」

「心配性のお頭が動こうとしないからおかしいと思ったんですよ!」

「ちょっと待て誰だ今妙なこと口走った奴ァ!!」

「うるせー!! いいから心当たりのある場所洗いざらい吐け!!」

 心優しいお掃除係の行方を案じているのは何も恋人であるシャンクスだけではないのだ。誰も彼もがシャンクス相手に掴みかかり、言えや吐けやと、もう大騒ぎ。うちのお掃除係は愛されてるねェ、なんて言いながら、キセルを吹かす副船長・ベン・ベックマンはいつも通り飄々とした面持ちだ。

「まあそう騒ぐな。焦らなくとも、そのうちひょっこり帰ってくるだろ」

「なんで副船長はそう落ち着いてられるんですかあ!」

「あいつの言う“実家”に、一つ心当たりがあってな。おれの勘が正しけりゃそろそろ──お」

 ベックマンの言葉は、不自然に途切れる。冷静沈着な彼がほんの少しだけ目を丸くする視線の先を、クルーやシャンクスたちは自然に追いかける。そしてその先には、酒気に頬を赤くさせたナギサが笑って立っているだけだった。

『『『ナギサ〜〜〜〜〜ッ!!』』』

 船長兼恋人であるシャンクスを押しのけ、クルーたちはオイオイと泣きながらナギサの周りに集まる。見覚えのある光景にナギサはふわりと笑いながらも、どこか申し訳なさそうに首を垂れる。

「そりゃ心配するだろうが〜〜〜ッ!!!」

「おめェ今までどこ行ってたんだよ〜〜〜!!」

「実家ってなんだよも〜〜〜!!」

「ごめん。心配かけた」

 そんな彼らの姿を見て、やれやれと、肩を竦めるベックマン。後はお頭が上手く収めてくれよ、そうやってシャンクスの肩を叩いて去っていくベックマンと入れ違うように、シャンクスは一歩足を踏み出す。

「ナギサ」

 その一声に、ナギサに群がっていたクルーたちが一人、また一人とナギサから遠のく。まるでナギサとシャンクスの周りだけ、バリアでも張られたように不自然に人だかりが出来る。二人の間には沈黙が流れるも、それは決して険悪なものでも、重たいものでもなかった。ナギサは少し観念したように微笑みながら、シャンクスに一歩近づいた。

「ナギサ。お前に聞きたいことは一つだ」

「うん」

「お前の帰る場所は、どこだ」

 その一言に、きょとんとした面持ちのナギサ。だがすぐに破顔して、今日ばかりはと、ナギサはシャンクスに唯一残された腕を取り、その場に傅いた。

「此処」

 ただいまと、そう笑うナギサを、シャンクスはようやく笑って受け入れたのだった。

















































「そういや、ナギサとお頭。なーんで喧嘩してたんだ?」

「「カレイとヒラメ、どっちが美味しいか」」

「一生やってろ」






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葵さんからの100万hit記念リクエスト、
『夢主がまた白ひげ一味と再会する話』でした!
スタピやばくて色んなキャラ出したかったけど
引き出しの関係でこれが限界だった。ごめんなさい葵さん。
楽しんで頂ければ幸いです。

因みに夢主はヒラメ派。
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