灰から生まれた黒薔薇の嘆き

※if ポタ主が親世代に生まれてたら

※細かいことは気にしたら負け
















その時代、ホグワーツにはそれはそれは美しい生徒が二人いた。

一人はさらさらの赤毛にエメラルドの瞳を持つ、美しい顔立ちの少女。マグル生まれながらとても賢く勤勉で、真面目な監督生。分け隔てなく明るく優しい、勇猛果敢でちょっぴり生真面目。けれど誰からも愛される、白百合のように可憐な少女。名前を、リリー・エヴァンズといった。

もう一人はくせっ毛の黒髪にエメラルドの瞳を持つ、リリー・エヴァンズに瓜二つの少女。杖を握らせたら右に出る者はいないと噂される程の腕を持ちながら、どこまでもその力を高める為の努力を怠らない。何処か達観した考えを持つ少女は、気高き黒薔薇のように多くの人を惹き付けた。名前を、アシュリー・エヴァンズといった。

そんな二人のエヴァンズは正真正銘双子で、ホグワーツきっての美少女姉妹に多くの男たちが焦がれた。かの有名なシリウス・ブラックも―――そんな一人であった。



「よう、アシュリー」

「ん、ブラック。おはよ」



多くの乙女を虜にしたその魅惑の笑みも、彼女にしてみればただの同級生の挨拶。するりと交わされ、アシュリーは何食わぬ顔で、談話室のソファに腰掛けていた妹のリリーの肩を叩いた。リリーは嬉しそうにソファから立ち上がると、アシュリーの手を引いてさっさと談話室を出ていってしまう。

そのせいでシリウスは、今までリリーにあれこれ勝手に話しかけてはうざがられていた親友のジェームズ・ポッターに睨まれるはめになった。



「おいおい我が友パッドフット、しっかりしておくれよ! 君がアシュリーを引き止めておいてくれないと、僕のリリーが取られちゃうじゃないか!」

「うるせえ」

「全く、好きな女の子一人引き止められないなんて、情けないなあシリウスは。プレイボーイの名が泣いているんじゃないか?」

「そのセリフ、五年間フラれ続けてるお前にだけは言われたくなかったぜ、我が友、親友よ」

「リリーは照れ屋なだけさ!」

「俺はお前ほどポジティブじゃないんだ」



がしがしと頭を掻いて、シリウスも立ち上がり、朝食をとりにジェームズたちと大広間に向かう。大広間につくなり、ジェームズはリリーの座っている席まで飛んでいき、その前を陣取る。リリーはまるで蛇蝎を見るように顔を顰め、二、三言ジェームズに投げたがジェームズは聞く耳持たず。リリーはやがて、諦めたようにため息をついて、視界にジェームズを入れないよう、アシュリーの方を向いて食事を始めた。

それを見て、まだ嫌われてないだけ自分の方が遥かにマシであるという現状を噛み締めながら、シリウスもちゃっかりアシュリーの前に席を陣取る。アシュリーは特に何も言わず、かぼちゃジュースの入ったゴブレットを煽る。



「……」



こうしてまじまじと見ると、顔立ちは本当にリリーと瓜二つだ。だが、彼女たちは双子ながら髪の色も違い、身長も異なり、何より彼女たちは性格が全然違うので、その纏う雰囲気のせいであまり似てないように取れる。

リリーに比べてアシュリーはかなり小柄で、双子というか姉妹のように見える。性格も、優等性を絵に描いたリリーとは違い、アシュリーは自分の好きな教科にしか力を注がないし、何事にも寛大で滅多なことで怒らない。同い年の筈なのに、小柄な筈なのに、その落ち着きぶりは自分たちよりすっと年上に思える。

そういう、余裕を孕んだ立ち居振る舞いがイイのだと思う。澄ました顔をしているアシュリーをじっと眺めていると、アシュリーはゴブレットを机に置いて、シリウスを見て、首を傾げた。



「ブラック、私の顔になんかついてるか?」

「い、いや、なんでもっ!」

「そっか」



ならいい、と静かに言って、アシュリーは立ち上がった。ジェームズに散々うざ絡みされていたリリーもそれを見て、慌てて立ち上がる。



「リリー、もういいのか?」

「ええ。早く行きましょう、姉さん!」

「そんなあっ! アシュリー、僕は今リリーと話していたんだよ、邪魔をしないでおくれよ!」

「勝手にぺらぺら喋っておきながら随分とおこがましいことを言うんだな、君は。お節介ながら言わせてもらうがね、その優秀な脳みそに叩きこむのはクィディッチでもスネイプ苛めでもなく、人と会話することじゃないかな」



リリーと同じ顔をしていながら、その口から紡がれる言葉の冷ややかな事といったら。どちらかと言うと激情型のリリーとは違い、毒舌型のアシュリーは、ダンゴムシでも見るかのような目つきでジェームズを見上げている。だがジェームズとて、伊達に好いた女性に五年間フラれ続けている訳ではない。ちっとも堪えた様子も無く、頭を振る。



「酷いよ義理姉さん! 将来の弟に対して辛辣だと思わないのかい!?」

「私の姉さんよッ!! 大体、どうしてあなたが姉さんの弟になるっていうのよ!!ポッター、あなたね、ふざけたこと言わないでよ!!」

「リリーも噛みつくんじゃない。鬱陶しいなら無視しなさい」



だって、と不満げなリリーの手を引いてさっさと大広間を出ていく姿は、小さいながらも立派に姉の物だ。ジェームズはリリーよりも不満そうに、ドカッと椅子に腰を下ろした。



「リリーと同じ顔でさらっと酷いこと言うんだもんなあ。全く、みんなの趣味を疑うね! リリーの方がずっと可憐で可愛らしいっていうのに、どうしてアシュリー派があんなにいっぱい居るのか理解できないね!」

「遠回しに俺の趣味も悪いって言ってるのか、それ」

「君の趣味が良かった時が一度だってあったかい!? 大体、何でアシュリーなんだ? リリーだって同じ顔してるじゃないか!!」

「じゃあお前こそなんでリリーなんだよ。アシュリーだって同じ顔だろうが」

「全然違うじゃないか! 何言ってるんだこの駄犬ッ!!」

「もうお前ほんとめんどくせえな」



事リリー・エヴァンズに関しては誰よりも面倒くさい親友である。リリーがいかに素晴らしいか語りだすジェームズを引き摺りながら、シリウスも授業の為に教室を移動する。

最近のジェームズは事あるごとにリリーに絡みに行ってはアシュリーにあしらわれるか、アシュリーに絡みに行ってはリリーに平手打ちやら右ストレートやらパワーボムやら喰らっている。飽きない事だとシリウスも感心してしまう。最も、その騒ぎに乗じて自分もさりげなくアシュリーに近付いているので、シリウスにジェームズの行動を諌める権利はないのだが。



「な、なあ」



談話室で姉妹仲良くレポートをしていたところに乱入し、ブチ切れたリリーにブレーンバスターを喰らっているジェームズをちらりと目に入れながら、シリウスはアシュリーに声をかけた。アシュリーは机に置いてあった糖蜜ヌガーにビスケットをつけて食べながら、シリウスを振り返る。



「アレ……止めないのか?」

「ん、ああ……なんかもう、止めるのも馬鹿らしくなってさあ」

「そうなの、か……?」

「というか、私が止めに入っても逆効果だろうしね。私が止めるより、ルーピンに任せた方が手っ取り早いということに気付いたんだ」



正直リーマスがこの騒ぎを聞きつけてやってくる頃にはジェームズの腕の一本でも持って行かれそうだが、自業自得に他ならないのでシリウスもそうか、とだけ言ってさり気無くアシュリーの隣のソファに腰かける。

暖炉の炎に照らされ、どこか陰りを見せるその横顔に釘付けになりそうだった。エメラルドの瞳を静かに伏せ、赤と金の装飾が施されたティーカップに口付ける、ただそれだけの動作なのに驚くほど人目を引く。見知って五年経つが、年々彼女は優美に美しくなっていく。子どもの様なあどけなさはまるでなく、そこにいるのは一人の“女”だ。



「君こそ」

「、え」

「君こそ、親友がああも痛めつけられているのに、止めなくてもいいのかい? どうも私の悪い影響を受けてしまったらしく、リリーは些か暴力的なんだ」

「……悪い影響?」

「ああ。これでも、マグルの格闘技教室に通っていたんだ」



その発言に、シリウスはただただ驚いた。

アシュリー・エヴァンズは少し不思議な魔法使いだった。彼女は杖を握らせれば誰よりも優秀な魔女であったのだが、毎日毎日走り込みをしたり、筋トレをしたりと、自身を鍛え上げるのに余念がない。勿論魔法の勉強も人一倍こなしているのは周知の事実だが。

それでも彼女は、あらゆる手段で、あらゆる方向に、日々己を鍛えていた。まるでそう、いつか来るべき“何か”に備えているかのように。



「しかし、英国淑女としては如何なものか。あれじゃあ嫁の貰い手に困る」

「……ジェームズなら、どんなエヴァンズでも受け入れると思うぜ」

「私より弱い男に、可愛い妹はやれないなあ」



くるり、と指先で杖を回しながらニヒルに笑うアシュリー。天才と言われるジェームズ・ポッターでさえも、杖を握るアシュリーにだけは敵わないのだから、そんな調子ではリリーは在学中に恋人を作るのは無理だろうと思った。最も、姉離れの出来ていない彼女が恋人を欲するかは別の話だろうが。



「お前も、」

「うん?」

「お前、も」

「うん」

「こ―――恋人は、強い男がいいってクチか?」

「……私?」



きょとん、とまるでそんなことを言われるとは思わなかったとばかりにアーモンドの瞳をまんまるにするその姿は、いつもとは違い、年相応の、ただの、十五歳の少女の様に思えた。だが、すぐにありえない、とばかりに破顔して笑い飛ばした。



「私か! そうか、私に恋人か! ははっ、それはいいな、考えたことも無かったよ! ふふっ、あははっ、はは、あははははっ!!」



アシュリーは子どものようにケタケタ笑い出した。シリウスには彼女の何がツボだったのかよく分からないが、とりあえず彼女に好きな人がいないということはよく分かったので一安心した。それと同時に、年頃の少女らしく恋人を夢見るタイプでもないのだと、自分の想いが報われる可能性も少なそうだと思い知らされ、内心凹んだが。



「そうだな、恋人って言うなら……」



そう言いながら、アシュリーはじいっとシリウスを見た。見つめる、というよりは、どこか値踏みするような目つきだったので、ドキドキするというかドギマギした。そして一間置いて、綺麗に瞬くエメラルドグリーンが、ゆるゆると笑んでみせた。





「君のように、とびっきりハンサムな男がいいね」





それがどこまで本気なのか分からない。友達同士が交わし合う冗談だったのかもしれないし、読めない彼女が何気なく言った一言だったのかもしれない。それでも、そうだとしても、愛しい人からそんなことを言われて喜ばない男なんていないわけで。

絶対落とす、とシリウス・ブラックは談話室の揺らめく炎に、そう、強く強く誓ったのだった。その結果が実を結んだのか否かは―――物語の、頁の外側に、あるのかもしれない。





*END*

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30万hit記念、鈴原琴音さんリク、
『もし夢主が成り代わりじゃなくて親世代に産まれてたら』でした!

あれ?こんな口調だっけ?と思われる方も居たかも知れませんが、
成り代わりでもなく、何かを演じる必要のない彼女は、
“此処では”素のままに生きている、という話です。
とはいえ修行には余念がなさそうですけどね。

もっと仕掛け人とかスネイプとか出したかったのに、
長くなりすぎたのでここでカット!という形で(; ・`д・´)
普通に書いてて面白かったですww

ここぞとばかりにリリーが暴力的なのは私の趣味です。
あと本編でもちょこちょこ出てるのですが、
夢主は結構メンクイです。品が無いので表に出さないだけで。


鈴原琴音さん、素敵なリクエストありがとうございます!
書いててめっちゃ楽しかったです!!ww
因みに私もシリウス推しです。


これからもかしわもちを宜しくお願いします!


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