居心地悪くなっていたカカシも、愛する我が子に笑顔を見せられれば、周りなどどうでも良く感じられる。
「楽しい?」と微笑んでやれば、余計キャラキャラと声を上げるアオイは楽しいと全身で語っているように見える。

「アオイ。ちょっと顔上げて」

笑いながら砂の中に手を突っ込んでいるアオイの髪が乱れているのでカカシは髪を結び直してやろうとしたのだが、勿論おとなしくしているようなアオイじゃない。
悪戦苦闘してその状態で無理矢理髪を縛ったら少し変な感じになった。
今まで前髪しか結んでいなかったのに横髪まで巻き込んで結んでしまい、箒のようである。

(ま、いいか)

一段落してまた砂遊びを再開した時、突然、小さな子供がずんずんとやって来て、アオイの隣に腰を下ろした。

小さな、と言ってもアオイよりはだいぶ大きく、多分五歳くらいだろう。
黒髪の、整った目鼻立ちをした男の子だ。

「これ、やる」

そう言って、ポップキャンディをアオイに差し出した。

アオイはまだ小さく、飴なども喉に引っ掛けてしまう為、食べられないのだが、この幼さの子供にそういったことが分かるはずもない。

「んー?」

「貰いなさい。ありがとうって言うんだよ」

頚を傾げているアオイに言えば、アオイはカカシに言われた通りキャンディを受け取った。
続けて、カカシが
「ありがとうは?ありがとう」
と頭を下げる仕種を教えれば、真似して男の子に頭を下げる。

「ありがとうね」

そして、カカシからも男の子にお礼を言ったのだが、男の子はどうもアオイに興味をもったようだ。
カカシの礼を無視してアオイのことを訊ねてきた。

「この子、名前なんていうの?」

「え、あぁ……。アオイだよ」

「ふぅん。髪、変なの。ほうきみたい」

「……」

小さいのに、どこか落ち着いた雰囲気の男の子である。
カカシもどう接していいか分からず、状況を見ていると、男の子はボスボスと砂と戯れているアオイの手をいきなりとった。

「あおい、こうするんだよ」

しかも呼び捨てだ。

(……この子、どこの子だ?)

母親はどいつだ。

父親としては可愛い娘を、どこの馬の骨とも分からない男にあまり触られたくない。
……男といっても、まだ四、五歳の子供だけれども。

しかし、アオイとしても知らない男の子に馴れ馴れしく手を掴まれたことに少し困惑したようで、難しい顔になって立ち上がったかと思うと、隠れるようにカカシの背中に回って額をカカシの肩に擦りつけた。
嫌そうな顔をして「んせー」と呟き、眉を寄せている。

アオイは普段からサクラには懐いているが、サクラが近頃連れて来るようになったシカマルやサイにはあまり懐いておらず、寄っていかない。
カカシ以外の男が好きじゃないようなのだ。

そんな仕種に、カカシはホッとすると同時にメロメロになった。









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