「……吸血鬼?何、それ」 「クラスのみんながゆってるってば。……おっきい家に一人で住んで、ほとんど外に出ないし、色白いし、きゅうけつきみたいだって」 ナルトのそれを聞いて、吸血鬼は少し困ったように笑う。 「子供って、発想が豊かだよねぇ。吸血鬼ね……考えたこともなかったよ」 「ちがうってば?」 「違うよ。家は祖父から譲り受けたもので、両親は数年前に亡くなったんだ。それに、ただ篭ってるわけじゃないよ。やってる仕事が在宅で出来るものだから頻繁に外に出ないだけで……」 吸血鬼はそこまで話して言葉を切り、苦笑いした。 ナルトがぽかんとして見上げているからだ。 「……難しいこと言われても分からないよな。とりあえず俺は吸血鬼じゃないよ、普通に人間」 「そうだってば?」 「そうだよ」 「ふーん、なんだ」 怪談やホラーというのは聞けば怖いが、迷信だったと知ると、残念に思えるものだ。 ナルトが口を尖らせ、前に向き直ると、くすくすと笑うような声が後ろで続けた。 「吸血鬼の方が良かった?」 もう温いマグカップにナルトはまた口をつけた。 「うん」 「どうして?」 「その方が、珍しいし、おもしろいってばよ」 「怖がってたのに?」 ぴくりと反応して、ナルトは後ろを振り仰ぐ。 青年は柔らかな笑みを浮かべてナルトを見下ろした。 「怖がってたでしょ?俺のこと。さっき、会ったばかりの時。縮こまっちゃって、仔猫みたいになってたのに」 かぁ、と頬が熱くなる。 「こっこわがってなんか、ないってばよ!」 小さいが、一応男の子である。 怖じけづいた、と思われるのは癪で、ナルトは頬を染めて膨れた。 「そう?」 「そうだってばよ!あれは、母ちゃんが、知らない人にはついてっちゃダメだって言うから、迷ってただけだもん」 「そうなんだ。けど、ついて来ちゃったね?」 その言い方に、どきりとする。 そういえば、まだ名前も知らないままだ。 ついて来たばかりか、ナルトは今、その男の膝の上で腹を抱えられている。 「……で、でも、吸血鬼じゃないんだってばよ?」 吸血鬼がいたら面白いと思うが、現実的には、知らない人よりも吸血鬼について行った方が危ない。 だって、血を吸われて死んでしまうかもしれないから。 そんな風に思ってナルトが訊ねると青年はまた目を細め、柔和に口の端を持ち上げた。 「……ナルトくんは、可愛いね」 顔を寄せられて、視界が狭くなる。 ナルトは目を見開いた。 ナルトの腹には青年の手が回ったままで、逃げられそうもない。 「ねぇ。でも……本当に吸血鬼だったら、どうする?」 *** 「ただいまー」 午後八時過ぎ、ナルトの住まううずまき家に父親――ミナトが帰宅した。 「おかえり」 妻のクシナに出迎えられ、鞄を渡し、ミナトはネクタイを緩めながらリビングを覗き込む。 「……ナルトは?」 いつもなら真っ先に「父ちゃん!おかえりってばよ!」と飛び付いてくるのに、今日に限っては影も形もない。 クシナは困ったように眉をひそめた。 「それが、あの子ってばちょっと遅れて帰って来たかと思ったら熱出しちゃったみたいで。今寝てるわ」 前へ 次へ戻る4/5 |